リーフィアと歩む緑統一の軌跡

ポケモン全国図鑑「緑」検索のポケモン達と共にポケモンバトルに挑む自称猫の育成記録。最近はクトゥルフ神話TRPGの沼に浸かっている模様。

【2年目】猫がPLとしてCoCシナリオを繰り返したら、こうなった。

クトゥルフ神話TRPGの世界観の沼に浸かり続けて二年目を迎えた猫です、こんにちは。

この文章はクトゥルフ神話TRPG歴が二年となった猫が、いつ、どんなシナリオをプレイしてきたのか忘れないための備忘録的なものです。要は一人語り。読まなくても平気です。なお、こちらはPL編です。
「スクワレルモノ」のストーリー詳細と顛末、要はシナリオのネタバレが含まれますので、PL予定の皆様はこの先の閲覧はお控えください。ネタバレをしても後悔しない方のみどうぞ。

 

 

 

2019年8月25日「スクワレルモノ」置物様作

KP:イルハ/PL:猫・えみりぃ・こたつタコ・ツキナミ・りん/PC:草加葵(私立探偵)・江見正明(医者)・山崎ひなた(医学生)・我家垂蔵(刑事)・小鳥遊縁(看護師)

一言:もう、独りぼっちじゃない。

HO1を我家さん、HO2を葵君がもらって始まった本セッション。我家さんが謎の多い上司の命令でナタリーちゃんという少女を送り届けるように言われて困惑する一方で、他PCに揉みくちゃにされた葵君があめちゃんという少女を預かるように依頼され、直後、肝心の依頼主が失踪を遂げました。まともな依頼主は現れないのかこの探偵事務所。

事務所に残された住所を頼りにあめちゃんの自宅を訪れれば血塗れの部屋が待っていました。我家さんとナタリーちゃんとも合流し、各々の場所で就寝することに。こたつタコさんとツキナミさんには大変な思いをしてもらいながら情報を集めていただきました。感謝です。

次の日、突如としてナタリーちゃんが神話生物と化して一時的発狂した葵君でしたが、小鳥遊さんの《こぶし》クリティカルが見事に入って正気を取り戻しました。その節は大変お世話になりました。直後の《クトゥルフ神話技能》1クリである。葵君の《神話技能》の成功率が高いのは何でだろう……?

葵『……もう、“人殺し”は御免だからな』

その夜、閉所恐怖症(事務所で寝る時は扉を開けて間接照明を付けて就寝している)にも関わらず、あめちゃんのことが気がかりでキャンピングカーで寝たのに、居なくなっていることに気付かない辺りがほんともう。

しかし、《追跡》《運転/バイク》連続クリティカルを叩き出してすぐにあめちゃんの自宅に殴り込み、いち早く情報を掴めたのは大きかったです(途中で謎の失踪を遂げてしまった江見先生に申し訳なさを覚えつつ)

終盤では、あめちゃんをどうやって説得するかPL全員で悩みに悩み、いつの間にかPL1ポジションとして説得RPを任されることになりました(途中で睡魔に耐えきれずに夢の世界に落ちてしまった山崎さんに申し訳なさを覚えつつ)

猫「待ってくださいKP! 私は今頭が豆腐なんです! 葵君のRPの文章を打ち込んでいるんで待ってください!」※25時過ぎ

PLの皆さん「え、RPやってくれるんですよね?」「猫さんのことだからRPして、その文章貼り付けてくれますよ」「後から自分で文章書いてくれますって(ブログ記事の感想)」「録音しておきますね(ボソッ)」

猫「えええええええぇ……!!」

葵『俺も捻くれ者で爪弾きで、独りぼっちだったよ』
『でも、俺は依頼されたんだ。「お前を守れ」って。それに応えるのは「探偵」の仕事なんだよ』
『……知り合いにお前と年齢が近い子がいるんだよ、きっと仲良くなれる。この世界には、お前の知らないことも、もっとたくさんあるはずなんだ』
『だから、もし生きていきたいって思うなら、俺の手を握れ!  お前の口から「生きたい」って言ってくれよ!!』

??「♪〜(何かの終了音)」

猫「え、マジで録音してたんですか!?」

結果、渾身のRPはあめちゃんの心に届き、無事にあめちゃんを助け出すことができました。その後、KPからあめちゃんをどうするか尋ねられて、速攻で「探偵事務所で引き取ってもいいですか?」と言いました()

夜遅くまで申し訳ありませんでした、楽しかったです! あめちゃん可愛がりますね!!

以前、夢の世界でやむなく少女を殺してしまった彼が、今度はその手で現実世界の少女を救えたことにこれ以上ない程喜びを感じつつ。

【2年目】猫がKPとしてCoCシナリオを繰り返したら、こうなった。

クトゥルフ神話TRPGの世界観の沼に浸かり続けて二年目を迎えた猫です、こんにちは。

この文章はクトゥルフ神話TRPG歴が二年となった猫が、いつ、どんなシナリオをプレイしてきたのか忘れないための備忘録的なものです。要は一人語り。読まなくても平気です。なお、こちらはKP編です。
「汝、死を乗り越え目覚めを渇望せよ」「深淵図書館」「傀逅」「オートマタは星に願う。」のストーリー詳細と顛末、要はシナリオのネタバレが含まれますので、PL予定の皆様はこの先の閲覧はお控えください。ネタバレをしても後悔しない方のみどうぞ。

 

 

 

2019年8月17日「汝、死を乗り越え目覚めを渇望せよ」あさい様作

KP:猫/PL:あさ/PC:里原椿(事務員)、草加葵(私立探偵)

一言:いつ気付かれるかとヒヤヒヤしていました。

里原君が前回のセッションで悪夢を見るようになったので、悪夢に関係するシナリオを用意しました。このシナリオを回すのが二回目ということもあって、一回目に比べるとまだまともに進行できたとは思うのですがどうだったでしょうか……(聞き専のぴーさんと話している時、ギミック処理が間違っていたことに気付いて裏で相当慌てていた模様)(互いのRPが白熱すると分かっていたので時間制限はなかったことにしてしまいました)

棺桶に閉じ込められ、運ばれた先で出会った男性の手を引いて「一緒に帰りましょう、貴方にも待っている人がいるはずです」と必死にRPする里原君の姿に、男性も少しずつ心を動かされていきます。

その後、面白いようにギミックに引っかかって即死し続けた里原君でしたが、(何かしら閃いたかどうか《アイデア》で判定させたらことごとく成功した)男性からヒントを与えながらも悪夢を一つずつ進んでいきます。同行者となった男性の性格が何となく見えたり、暗い過去を滲ませたりしていたのですが、最後に訪れた部屋で男性が《クトゥルフ神話技能》を振ったことで真名看破されました……(しかもクリティカルしたので呪文の効果まで分かってしまった)(軽率に自分の探索者を危険に晒すKP)

「前回、こんな感じの空間に巻き込まれた時には、これで元の世界に帰れたんです」と、意図せずベストエンドを掴んでくださったお陰で、あささんが所望していた黄金の蜂蜜酒を里原君にお渡しすることができました。

その後、恒例のエピローグでは、母親からの仕送りを草加診療所に届けに来た葵君が事務仕事をしていた里原君と再会し、近くの喫茶店でお茶をしながら話をすることに。わざわざ踏切や駅から離れた場所にしてくれた里原君の配慮に感謝です。

自分のせいで巻き込んでしまったと、不定の狂気も相まって泣きじゃくりながら頭を下げる里原君の頭を遠慮なくメニュー表でポスポス叩きながら葵君が叱責するという、おかしな構図となりました。再会をお待ちしております!!

 

2019年8月28日「深淵図書館」ざっそうを愛する猫作

KP:猫/PL:八面六臂/PC:下小針楼座(精神科医)、草加隼人(ビジネスマン)

一言:今後とも、よしなに。

某方との接点からセッションをすることになりました。初めから全速力でRPを飛ばしてくる良いキャラで、非常に楽しかったです。

途中、草加家長男と合流して順調に深淵図書館内を巡り、ほぼ理想的な流れで情報を集めてくれました。地図も分類番号に従って作成しているとはいえ、(意図せず)その番号に従って探索してくださってKPとしては非常に助かりました(全然関係ない話なんですが「草加さん」って呼ばれるのが新鮮でした)(同姓の探索者が多いため名前で呼ばれることに定評がある草加家一族)

途中で八面さんの考えを披露していただいたのですが、中盤の段階で見事にギミックを見抜かれていました。悔しい。脱出方法まで検討を付けた上で探索をし続けていたのですが、深淵図書館内のもう一つのギミックに苦戦を強いられます。下小針さんが意識を失えば草加さんが助け、草加さんが意識を失えば下小針さんが支え、互いに狂喜乱舞しながらも図書館内を回っていらっしゃいました(愉悦)

司書との会話では見事なRPで情報を抜き取っていました。素晴らしかったです!

八面「この司書さんは姉ビームを食らわせてきそうな感じがしてヤバい」

八面「可愛さですべてを解決させようとするのはよくない」

……あれ、交渉していましたよね? 何でこんな感じのメモしか残っていないんだ()

ところで、PCが二人とも《幸運》高くて司書の補佐と一度も遭遇しなかった(一度失敗したものの《聞き耳》成功してすぐにその場を離れたため会わなかった)し、塗り潰された棚も見なかったからSAN値も大幅に削れなかったせいで、完全にSAN値回復シナリオと化しました!! 生還おめでとうございます!!

また是非ご一緒させてください。具体的には「沼男」回しますので() 

 

2019年8月31日「傀逅」むつー様作

KP:猫/PL:れいらん・テル坊/PC:御剣暁(傭兵)・白鷺圭吾(ギャンブラー)・三司颯・白鷺逢

一言:濃密かつ最高のセッションをありがとう。

今年の夏を丸々費やして準備したシナリオをようやく回してきました。シナリオ制作者様が生放送で行っていたセッションを拝見した際には涙なしには視聴できず、「このシナリオは絶対に回す」と決意して一ヶ月弱のことでした。

PLのお二人に対し「PCと同居している大切な人(NPC)も一緒に作成してください」と早い段階でお願いしていたお陰で、かなり凝った設定の探索者達が集まりました。「(何だこの設定、絶対このシナリオにぶっ刺さるやん)ありがとうございます!!」と、キャラシ提出段階でテンション高めの猫でした。

いざセッションを始めると、優秀な傭兵として活躍している御剣さんと、過去に殺人経験のある元自衛隊こと白鷺さんのコンビが熱いのなんの。動と静、炎と風、まさに理想のコンビすぎてRPの途中で堪えきれず猫が「はぁああああーーーーー」と溜め息を零す始末でした。日を跨ぐ毎に悪化する現状を何とか乗り越えようとする二人の姿には何度も感動させられました。

しかし、二度目の休憩明けから更に状況が悪化したせいでPLの涙腺が緩み、その後の展開で遂に崩壊したとか何とか(RPの途中で「ちょっと待ってください、タオル取らせて(涙声)」と、まさかのタイムが入る)

PCの大切な人として颯ちゃんと逢ちゃんをお借りしてRPしていた猫ですが、途中から何とかキャラを掴んで思うように動かすことができました。人のPCをお借りする緊張感半端ないですね……なお、猫がセッション中で最も緊張したのは初めて自分の探索者を画面上に出した時です(心臓止まるかと思った)

ここから先は、朝10時から(1時間半の休憩を二度挟んで)夜11時まで白熱したセッションの中から特に厳選したRPを置いておきます。

御剣『ミッション承諾、目標を殲滅する(一時的狂気で殺人癖を発症)』

テル坊「『またこいつ頭おかしくなってやがる』って思ってます(止めない)」

*****

御剣『もう俺は、二度と大切なものを手離したくない。命を懸けてでも、奴と刺し違えてでもお前を守る』

颯『命を懸けるだなんて言わないで! 暁さん、必ず戻ってきて……っ!』

*****

逢『お兄ちゃん、私、待ってるからね』
白鷺『奴を止める以外にもやることが増えたな。まぁ、生きるか死ぬかは俺の運に賭けるか……!』

*****

御剣『○○○○○○○、いやコードネーム:アカツキ……違うな。御剣暁、任務を開始する』

白鷺『やるぞ御剣。ラストミッション、スタートだ!』

セッションが無事に終了した後も、DM間で素材や資料、短編のやり取りをさせていただき、非常に楽しいセッションとなりました! れいらんさんに至っては、自分がKPとしてこのシナリオを回す予定をもう入れたのだとか……凄っ……。

今後のお二人の活躍を期待しております。

 

2019年9月1日「オートマタは星に願う。」にこいち様作

KP:猫/PL:八面六臂/PC:片端信濃(司書)

一言:いや、そこまでするつもりは……(あった)

あらかじめ「傀逅」の次の日にセッションの予定を入れておいた猫です。なお、セッションを始める前に小一時間ほどFGOの話で盛り上がったとか何とか。

開始直後「親方! 空から女の子が!」現象に巻き込まれた片端さんですが、その辺りから八面さんの様子に異変が起こります。具体的には、猫が幼女RPをする度に中の人が吐血したり悶え苦しみ出したり、相当面白……いえ、大変なことになっていました。

猫「あの……八面さん、大丈夫ですか?」

八面「セッション中に舌を噛んで死にそうになります……万が一反応がなかったらLINEで○○○(八面さんの知人)に連絡してください……」

猫「ええっ!?」

そう言われたものの(自分がPLの時にはぴーさんの幼女RPを切り返して逆にKPに溜め息を吐かせたけれど、本来あるべき形はこれなんだろうなぁ……と感慨にふけりつつ)幼女RPの手は緩めない猫でした。

f:id:leafiness:20190910215857j:image ※過去にオートマタを回したぴーさんとの鬼畜会話の一部始終。

「巴ちゃん」という名前を付けてもらった幼女と片端さんが順調に絆を結んでいく中、遂に巴ちゃんの真実が明らかとなります(「流さないでください!!」と言われたのにRPの途中で悲しい曲調の音楽を入れる鬼畜KP)

片端『巴ちゃんが○○なんて関係ないよ! 私は、巴ちゃんともっと一緒にいたいんだよ!』

巴ちゃんの限られた命を生き長らえさせる術を求めて、二人で山へと登ります。そして辿り着いた先で運命の10d100を振っていただきました。結果的には巴ちゃんに5日間の命を与えることができたものの、片端さんがそれ以上の寿命を求めようとしていました。

片端『巴ちゃんと一緒にいられるなら、もうどうなってもいいかな……?』

猫「…………巴ちゃんは片端さんに、『もっといろんな世界を見てほしい』と言っていましたね(内心非常に焦る猫の図)」

八面/片端「『………………………』」

何とかPCの命を繋ぐことはできたものの、八面さんが巴ちゃんロスを相当重く引きずっていらっしゃるご様子でした。シナリオを回したKPとしては嬉しい限りです(鬼畜)

仮想卓短編小説「永久の花束を、君に」

長かった三十三連勤がようやく終わりを迎えた猫です、こんにちは。

この度は、自分の探索者向けにオリジナルシナリオを書いたはいいものの(執筆者なので)PLができない悲しみを背負った猫が、「それなら短編を書けばいいじゃないか!」という雑な発想で書き上げた仮想卓となります。なお、作中でのRPやPCの心理描写は猫の妄想ですが、ダイス目は「クトゥルフWEBダイスロール(http://cthuwebdice.session.jp/dice/)」を使用して平等に判定しています。

拙い文ではありますが、皆様に少しでも楽しんでいただけたのなら嬉しいです。

 


【人物紹介】

草加怜[くさかれい]34歳男性/医者/PL:猫

https://charasheet.vampire-blood.net/1407615

本作のPC。「草加診療所」という名の診療所を営む医者。重度のお人好しにして鈍感系主人公。一時期深緑と同居しており、現在は翡翠と同居生活を送っている。翡翠に対する恋心を自覚しつつも、その想いを胸中に隠している。過去に神話的現象に散々巻き込まれ続けた結果、《クトゥルフ神話技能》が30まで上がっている。

 


草加深緑[くさかみどり]17歳少女/放浪者

https://charasheet.vampire-blood.net/1658254

異世界に迷い込み、某闇医者に助けられた結果、日本に定住することになった白髪赤眼の少女。元は中国出身の孤児。某作家を助けるために犠牲になり、白鳩に姿を変えた。現在は某作家の下で生活し、たまに怜の診療所に遊びに来ている。

 


草加翡翠[くさかひすい]17歳少女/メイド

https://charasheet.vampire-blood.net/2125433

突如怜の前に現れた、白髪琥珀眼の少女。人間の姿の深緑と瓜二つの容姿をしている。元は人造人間だが、怜の尽力で奇跡的に一命を取り留め、人間として復活した後、彼と同居している。怜のことは命の恩人として慕っている。

 

 

 

「永久(とこしえ)の花束を、君に」

 

 

目を覚ませば、見慣れぬ天井が視界いっぱいに広がっていた。
「……また、か」
溜め息まじりに、真っ先に思い浮かんだ言葉が思わず口を付く。普通の人であれば、自分が見知らぬ場所で寝ていれば混乱したり驚いたりするのだろうか。非日常に巻き込まれ続けた自分は、そんな「当たり前」の感覚が擦り切れてしまったようだが。
五体が縛られていないことと身体に違和感がないことにありがたさを思いつつ、その場から身体を起こす。どうやら、自分は白いベッドに横になっていたらしい。
視界が広がれば、部屋の全体像が把握できる。そこは、一辺が七、八メートルの立方体の部屋のようだ。天井には蛍光灯があり、壁や扉、家具などは全て白で統一されている。窓は一つもないが、奥には扉が一つある。また、部屋の中心には小さなテーブルが置かれ、部屋にあるものの中で唯一、黒色の鳥籠があった。
ただ、身体を起こした段階で一つ気になることがあった。自分が、寝間着でも普段着でもない服を着ているのだ。携帯電話や貴重品の類が一切ないのはもはや慣れたものだが、それにしても白いタキシードとは一体どういう了見なのか。
《知識》1d100<=70→31→成功
しかも、このタキシードは結婚式で新郎が着るような正装服ではないだろうか。こんな服とは縁遠い身だ。違和感しかない。ただ、代わりに着る服が都合よくあるはずもない。しばらくこのままでいるしかないだろう。
気を取り直してベッドから起き上がり、自分が寝ていた場所に何かこの空間に関する情報がないかどうか確かめる。
《目星》1d100<=63→74→失敗
しかし、それらしきものは見つからない。こればかりはいくら非日常を経験しても仕方ないだろう。
次に、部屋の中央にある小さなテーブルに近付く。ベッドから見たときには周囲の白い壁と同化して分からなかったことが二つある。一つは、テーブルの上には鳥籠の他にも一通の封筒が置かれていること。もう一つは、鳥籠の中に白鳩が閉じ込められていることだ。
「深緑さん!?」
思わずよく知っている白鳩の名前を叫び、慌てて鳥籠に駆け寄った。鳥籠の中にいる白鳩に反応は見られなかったが、僅かに羽を上下に動かしている。どうやら眠っているだけらしい。
「深緑さん、起きてください。深緑さん!」
何度か声をかければ、白鳩が目を開いた。瞳の色は赤。世間一般的にアルビノと呼ばれる品種だ。
「えっと、深緑さん……ですよね。どこも具合は悪くないですか?」
白鳩はこちらの呼びかけに軽く頷いた後、羽を広げて一鳴きした。間違いない。自分のよく知る鳩、もとい草加深緑その人だ。
「待っててください、今開けます」
鳥籠には鍵が掛かっていたが、幸いなことに簡単に開けられるようなツマミを用いた簡易的なものだった。自分の知る白鳩ではないことも考えられたのですぐに開けることに躊躇いがあったが、身元を確認できれば話は別だ。ガチャリ、と軽い音と共に鍵が外れ、鳥籠が開く。深緑さんは器用に扉を潜ると、私の肩の上に素早く飛び乗って頬ずりしてきた。
「ちょ、ちょっと深緑さん、くすぐったいですってば」
そう言いながら、テーブルの上に置かれていた封筒に手を伸ばす。封筒には「草加 怜 様」という宛先が書かれている。送り主の名前は書かれていない。中には質のよい便箋が一枚入っていた。当然、中から取り出して文面を読むことにする。
『謹啓
皆様におかれましては、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
この度、私たちは結婚式を挙げることとなりました。
つきましては、末永くご懇情をいただきたく、ささやかですが粗餐を用意させていただきました。
ご多用中、まことに恐縮でございますが、ぜひご出席賜りますようお願い申し上げます。
謹白
○○○○年○月○日 吉日
草加怜 ・草加翡翠
「は???」
思わず素っ頓狂な声が漏れる。一緒に便箋の中身を見ていたであろう深緑さんも、私の肩から落ちそうになる始末だ。
《アイデア》1d100<=65→19→成功
自分の結婚式にも関わらず、自分に招待状を送るなんてことがあるはずがない。そもそも、身に覚えが一切ない。想い人がいたとして告白すらしていないのだ。結婚式などと、そんなことを考えられるとでも言うのだろうか?
SAN値チェック》1d100<=69→93→失敗/SAN値69→68に減少
「痛っ!?」
不意にコツンと、深緑さんが嘴で私の頭を突いてきた。死角から相当の衝撃を受けた頭を抑え、その場で蹲る。肩から飛び降りた深緑さんがテーブルに着地し、私に対してさらに一鳴きした。一喝とでも言うのか、まるで「しっかりしてください。こんなことで動揺してどうするんですか」とでも言いたげに鳴く声に、混乱していた思考が次第に落ち着きを取り戻していく。
「す、すみません。取り乱しました……」
深緑さんに対して頭を軽く下げてから、改めて便箋を見る。裏に何かが書かれているわけでもなさそうだ。ただ、少なくとも自分がタキシードを着ている理由は予想できた。それにしても、彼女と祝いの席を設けること自体は嬉しいのだが、こんな形で実現してほしくはなかったというか何というか……。
「……さて、他に気になるところはないですよね」
《目星》1d100<=63→73→失敗
テーブルの下など、他にも何か情報がないことを確認してから、部屋を出るために扉に近付く。一般的な引き戸で、鍵がかかるような大層な扉ではなさそうだ。
《目星》1d100<=63→36→成功
ふと、扉を開ける前に、白い塗料が一部剥がれた場所を見つけた。よく見れば、何か文字が刻まれている。
『花束は貴方の命、貴方の愛の証。真に愛する者に捧げ、祭壇にて誓いを立てよ』
「花束?」
今いる部屋には花束も祭壇も見当たらなかった。ひょっとして自分が見落としているだけかも知れないが、いずれにしても覚えておいて損はないだろう。そう考えながら、私は深緑さんと共に白い扉を潜った。

 


扉の先は白い壁で作られた通路になっていた。床に赤いカーペットが敷かれており、十歩ほど先には先程と同じような白い扉がある。
《聞き耳》1d100<=51→60→失敗
念のため、白い扉に耳を当てて音が聞こえないかどうか探る。しかし、扉自体が分厚いのか、部屋の中の音は全く聞き取れなかった。
「中に入りますけれど、準備はいいですか?」
肩に留まっている深緑さんに断りを入れれば、首をこくんと頷く動作が返ってくる。
一つ深呼吸して扉を開ければ、こちらも先程と同じような白一色で構成された空間だった。すぐに分かる違いを挙げるとすれば、二つ。部屋の左側に本棚があることと、中央に置かれたテーブルがやや大きくなっており、その上に黒色のケースが置かれていることだろう。
テーブルの上に近づけば、ケース以外にも幾つかのものが置かれていることがすぐに分かった。一つは、白を基調とした花束。もう一つは白い小さな箱だ。
博物学》1d100<=10→86→失敗
《知識/2》1d100<=35→98→ファンブル
「しまっ……!」
花束に用いられている複数の花が何の種類か考えている内に、うっかりテーブルに足を引っかけてしまった。一つ足のテーブルはたちまちバランスを崩し、上に置かれていた花束や白い小さな箱、黒色のケースもろとも倒してしまう。途端に、ケースから猫の呻き声が漏れた。ひょっとしてと思って横になったケースを元の状態に戻せば、中に白猫が入っている。またしても白い壁と同化していたせいで気付けなかった。
「……ひ、翡翠さん?」
一度、同じような不思議な空間で自分の同居人が猫になって現れたことを思い出し、声をかけてみる。しかし、白猫は私の姿を見るなり威嚇を始めた。いきなりテーブルの上から叩き落としたのだから怒るのも無理はない。お叱りを受けるのは承知の上で外に出そうとも考えたが、ケースには南京錠が掛かっていた。鍵を探さない限り、開けるのは難しいだろう。
《鍵開け》1d100<=1→46→失敗
さすがに上手いこと開くはずもなかった。素直に鍵を探すべきだと考え、次に白い小さな箱の方へ視線を向ける。

手の平に乗るくらい小さな立方体の箱だ。持ち上げればそこまで重いものでもないことが分かる。正直な話、タキシードに花束ときて、この形状の箱となれば、中に何が入っているのか想像に難くない。中を開ければ、男女が付けるペアリングと一枚の紙が入っている。予想通りである。
一つ、男性用のものと思われる指輪を取り、填めはせずに大きさをそれとなく確かめる。見事に自分の左手の薬指とサイズが一致した。すぐに指輪を箱に戻す。女性用が誰のものか、それこそ答えは決まっているようなものだ。
紙には『真に愛する者同士が付け合えば、互いの絆はより強くなるだろう』と、ご丁寧に書かれている。
《目星》1d100<=63→23→成功
次に、花束を床から持ち上げようとして、中で何かがキラリと光り輝いているのが見えた。よく見ると、それは小さな鍵だ。テーブルの上に花束を戻してから、ケースの南京錠に鍵を填めてみれば見事に一致する。
ただ、このままケースを開けていいものか。依然として白猫はケースの中で威嚇を続けている。こちらの呼びかけに反応する素振りもない。今ここで軽率に開けてしまえば、取り返しの付かないことにもなりかねない。
逡巡している私の姿を見かねたのか、コツンと深緑さんの嘴が南京錠を叩いた。
「……開けろ、ということですか」
一鳴きして応じる深緑さんの姿に押される形で、私は南京錠の鍵を開ける。すぐにケースから白猫が飛び出した。そして、私の顔面めがけて飛び込んでくる。もちろん、両手の爪はきちんと立てている状態で、だ。
《回避》1d100<=52→96→ファンブル/HP10→8に減少
「っーーーーー!!?」
避けるどころかその場に無様に倒れ込んだのをいいことに、顔面に思いっきり爪痕を残されてしまった。正直、かなり痛い。近くに応急手当の道具がないことが悔やまれる。いつもなら診療器具も持っているのだが、ないものはどうしようもない。

痛みを堪えて白猫の行方を視線だけで追えば、どうやら白鳩こと深緑さんと仲良くしているようだ。深緑さんに被害がないことだけが唯一の救いだろう。
「……はぁ。猫に対しては運がないというか何というか……」
軽く愚痴を零しつつ、なるべく白猫を刺激しないようにその場を離れた。
本棚の側まで近付けば、本の外装まで全て白で統一されていることが分かった。その上、背表紙に題名すら書かれていない。中に何か情報があったとしても、これでは探すのが非常に大変そうだ。
《図書館》1d100<=64→83→失敗
かなり時間をかけて一冊一冊読んでみたと思うのだが、目ぼしい情報は書かれていなかった。さすがにもうお手上げだ。この部屋で探索できる場所を全て見た以上、また次の扉を開けるしかない。
「深緑さん、行きますよ」
白猫と戯れていた深緑さんは、こちらの一声でその場から飛び上がり、私の肩に飛び乗った。
「やっぱり翡翠さん……ではない、のか……?」
深緑さんと違い、白猫に対して「翡翠さん」と声をかけてみても応じる様子は見られない。ただ、私の足の周りを終始彷徨いて離れようとはしない。猫に対してつくづく運のない身ではあるが、深緑さんとも仲が良いようだし、無理に引き剥がすのも気が引けた。
元に戻したテーブルの上に置いていた花束を片手に持ち、指輪の入った小箱をタキシードのポケットの中に入れて持って行くことは忘れない。
特に、花束に関しては先程の扉に『貴方の命、貴方の愛の証』と書かれていた以上、そのままにしていいとは思えない。
《目星》1d100<=63→51→成功
扉を開ける直前、先程と同じことがないかと思って見れば予想通り、またしても白い塗料が一部剥がれた場所を見つけた。
『鏡は虚像を映し、偽りを暴くものである』
扉に刻まれている文字は、次に入る部屋のヒントのようなものだろうと当たりを付けながら、私は深緑さんと白猫と共に、先に続くであろう扉を潜った。

 


扉の先は、以前と変わり映えのない白い壁で作られた通路だった。床に赤いカーペットが敷かれており、十歩ほど先にはもはや見慣れた白い扉がある。ただ、先程と違って扉が両開きで開くように取り付けられている。
《聞き耳》1d100<=51→16→成功
白い扉に耳を当てて音が聞こえないかどうか探ってみると、僅かに扉の向こう側から人の話し声が聞こえてくる。異空間で出会う人間とまともに話をできれば御の字なのだが、果たして鬼が出るか蛇が出るか。
「中から人の声が聞こえますが……先に進みましょうか」
肩に留まっている深緑さんに再度断りを入れれば、羽を広げて一鳴きしてくれる。一方、足下に蹲る猫は毛繕いをしたまま応じる様子がなかった。さすがに呑気すぎやしないだろうか。
扉に向き直って改めて一つ深呼吸し、両開きの扉をゆっくりと開けた。
 
何がきてもいいように心づもりはしていたのだが、扉の先はある場所と繋がっていた。
そこは、挙式会場だった。
会場の両側に設置された長椅子に座っているのは、自分の知人や関係者だ。彼らは、不意に現れた私に対して驚く様子もなく、むしろ自然なこととして受け入れて皆立ち上がり拍手を始めた。喜色を湛えながら「おめでとう」という言葉を零す彼らに、当然話を聞ける雰囲気ではない。
むしろ、自分の両親と隼兄さんと葵はともかく、何故ミフネさんや小鳥遊君や里原君までが何食わぬ顔で参列しているのだろうか。いや、結婚式を挙げるのであれば真っ先に呼ばなくてはならない程お世話になっている人達ではあるが、置かれている状況が状況だけに悶々とした気持ちを抱えてしまう。
拍手は止むことなく鳴り続けている。彼らは、自分が前に進むことを求めているようだった。
会場の中央に敷かれた赤いカーペットの先に目を向ければ、祭壇らしき台座の前に立つ牧師の男性、そして、自分が見知った一人の少女の姿がある。
天窓から柔らかな光が差し込み、少女の着る純白のウエディングドレスを淡く照らし出す。琥珀色の瞳がこちらを見つめ、嬉しそうに微笑んでいた。
肩に白鳩、足下に白猫、手に花束を携えて、一歩ずつ前に進む。やがて祭壇の前に辿り着けば、拍手は鳴り止み、参列者の視線がこちらに集まっているのが背中から感じ取れた。
《目星》1d100<=63→89→失敗
《幸運》1d100<=70→40→成功
改めて近くで見れば、少女の姿は本当に綺麗の一言に尽きた。いつも見る私服や白衣姿も可愛く着こなしていたが、ウエディングドレスドレスともなると格別なものを感じざるを得ない。
「……痛たたっ!? い、一体何を……!?」
三十路が少女を可愛らしいと思いながら見るなとでも言いたいのか、肩に留まっていた白鳩から突如として怒涛の乱れづきが飛んできた。こめかみの辺りに打ち付けられて体勢を崩し、その場でよろけそうになる。
その時、幸運にも牧師の背後に何故か姿見があるのが見て取れた。角度的に、ちょうど自分の姿が映っている。
それはいいのだが、そこには自分の肩で頬杖を付いて膨れっ面を浮かべる白髪赤眼の少女の姿が一緒に映っている。
間違いない。深緑さんの元の姿だ。
『鏡は虚像を映し、偽りを暴くものである』
嫌な予感がする。考えたくはない予感ではあったが、確かめなければならない。
祭壇に戻ると見せかけて、目の前に立つ少女を姿見を通して垣間見た。
そこにいたのは、純白のドレスを纏った「何か」だ。自分が密かに想いを寄せていた人物は、今もなお目の前で微笑む彼女は、玉虫色の液体に無数の眼を覗かせて蠢く異形の存在だった。
SAN値チェック》1d100<=68→99→ファンブル/1d4+1→SAN値68→63に減少
《アイデア》1d100<=65→77→失敗/一時的狂気せず
その時の感情を一言で表すなら、「恐怖」だ。異形の存在に対する恐怖心ではない。似た存在であれば過去に二、三度見たことがある。積極的に会いたくない存在ではあるが、自分の守るべき人、愛する人がいない恐怖心に比べれば些細なことだ。
足下が抜けて果てもなく落ち続ける錯覚を味わったというか、頭の中が文字通り真っ白になって言葉を失ったというか、生きた心地がしなかった。そんな精神状況の中、数歩後ろに下がっただけで踏み止まれたのはまさに僥倖だった。何故なら、そのおかげで、自分の足下で寝転がる白猫の姿を姿見を通して見ることができたのだから。
「……っ、……ああ」
思わず安堵の声を漏らす。呼吸すら忘れていた自分の精神状態を見直し、数度深呼吸をする。
やるべきことは決まった。ただ、本当にやれるのかという問題は残っているが、それは自分の覚悟の問題だ。
こちら側の心の準備が整ったのを待ってくれていたのか、牧師の男性はおもむろに少女の方へ問いかける。
「新婦、草加翡翠。あなたはここにいる草加怜を、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
「はい、誓います」
隣にいる少女が静かに答える。次に、牧師はこちらに対して問いかけた。
「新郎、草加怜。あなたはここにいる草加翡翠を、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
「……いいえ」
周囲が一気に騒然となる。牧師に対する誓いの言葉は形式的なものであり、返答も決まったものだ。それを覆すなど本来あってはならない。だが、真に愛する者でないものに愛を誓える程、翡翠さんの存在が軽い訳でもない。
「私が愛しているのは、本物の草加翡翠さんです」
そう言ってから後ろを振り返り、その場に屈む。自分の手に持っていた花束を、足下で呑気に爪研ぎをしていた猫へと捧げる。
「……ふぇ?」
先程まで白猫だった存在は、次の瞬間には白いウエディングドレスに身を包む、もう一人の花嫁へと姿を変えていた。琥珀色の瞳をパチパチ瞬きさせ、表情一杯に困惑の色を浮かべる翡翠さんではあるが、細い腕には自分が渡した花束を握りしめている。
「では、新郎新婦は指輪の交換を」
翡翠さん、左手を出してください」
「え、ええっ? れ、怜さんこれ一体どういうことですか?」
申し訳ないが、ゆっくり説明する心の余裕はない。牧師の言葉に則ってそっと彼女の左手を取り、ポケットから取り出した指輪を薬指に填めれば、途端に会場が湧き上がった。
「えっ、え、……あぁああっ!?」
状況を読み込めていない翡翠さんだったが、自分の指に嵌められている左手薬指の指輪の意味にようやく思い至ったのか、一気に顔が真っ赤になる。
「こんな形で打ち明けることを許してください。それでも、この気持ちは私の……いや、俺の本心です。翡翠さん、貴女のことを愛しています。
もし、この気持ちに少しでも応えてくれる気があるなら、どうか俺の指に指輪を填めてもらえませんか」
一世一代の説得に対し、翡翠さんの指がわずかに動く。しかし、彼女の意思を最後まで見届けることはできなかった。何故なら、二人を取り囲んでいた空間そのものが歪み始めたからだ。
咄嗟に、目の前にいた翡翠さんに向かって伸ばした右手は、次の瞬間には虚空を掴んでいた。視界に映る景色も結婚式場のそれではなく、何の変哲もない自室の天井に変わっている。
ベッドから跳ね起き、真っ先に隣のベッドの様子を確認した。翡翠さんの姿は見られなかったが、わずかに掛け布団が乱れた跡がある。翡翠さんが自分で起き上がった証拠であり、いつもよく見る光景だった。
「……良かった」
ほっと溜め息を吐き、最悪の結末を回避できたことに胸を撫で下ろす。ただ、彼女の姿をきちんと確認しようと寝室の扉を開ければ、台所に立って朝食の準備をする翡翠さんの後ろ姿が見えた。
「おはようございます、翡翠さん」
「………………おはようございます」
《アイデア》1d100<=65→89→失敗
何かがおかしい。挨拶は小声で返してくれたものの、明らかに翡翠さんがこちらを向いてくれない。彼女の身体も妙に震えているような気もする。
特に嫌われるような出来事はなかったと思うのだが、一体どうしたのだろうか。
翡翠さん? どうかし、た……っ!?」
彼女の肩を掴もうとして偶然にも自分の左手が視界に入り、自分の考えの甘さにようやく気付くことができた。
これまで謎の空間から脱出すれば、自分以外の人は何が起きていたか覚えていなかったので考えたこともなかった。謎の空間で体験した記憶が相手にも共有されている、という事実を。
その証拠に、自分の左手薬指には見覚えのある指輪が填められていた。

 


ED②「真に愛する者へ、花束を」
SAN値回復1d5+3→SAN値67に回復

短編一次創作「新年のご挨拶は実家にて」

新年明けましておめでとうございます今年もよろしくお願いいたします(遅い)、ざっそうを愛する猫です。

この度は、2019年を祝うべく年末年始から自己満足で書き続けてきた、猫の探索者を主人公とした短編小説を載せようと思います。「短編」と言いながら約12400字あるので、巷で「それはもはや短編と言わないのでは?」という話が聞こえてきたような気がしますがきっと気のせいです。空耳です。

毎度のことながら身内感満載のため、簡単な人物紹介を付けておきますが、読まなくてもそれとなく大雑把な空気は味わっていただけるかと思います。

この度も探索者の使用どころか台詞発注を快く引き受けてくださった(もとい突然台詞をぶん投げ付けてきた)ツキナミさんと、Twitterに文面を載せる度にいいねボタンを押してくださったぴーさんに最大限の感謝を込めて。

拙い文章ではありますが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

 

【人物紹介】

草加怜(34歳男性/医者/PL:猫)
草加家の次男。草加診療所という名の小規模な診療所を営む鋼メンタルの医者。重度のお人好しにして猫が匙を投げる程の鈍感系主人公。現在は草加翡翠と同居している。クトゥルフ神話技能28。

ミフネ・ムレーヌ(30歳男性/薬剤師/PL:ツキナミ)
毒吐く(元)闇医者。草加診療所の薬剤師にして、翡翠の戸籍謄本を偽造した張本人。最近、諸事情により同居人(家政婦)が増えたらしい。クトゥルフ神話技能34。

草加翡翠(17歳少女/メイド/PL:猫)
草加怜と同居している少女。元々は人造人間とでも呼ぶべき存在だったが、奇跡的に一命を取り留め、現在は人間としての生活を享受している。料理は得意分野。クトゥルフ神話技能3。 

草加隼人(37歳男性/ビジネスマン/PL:猫)
草加家長男。電子工学系の企業で営業を担当しているサラリーマン。とある小説家と共に謎の空間に囚われ、生と死を何度も行き来する目に遭った以外は至って真面目で普通の人。クトゥルフ神話技能0。

草加葵(29歳男性/私立探偵/PL:猫)
草加家三男。草加探偵事務所という名の小規模な探偵事務所を営む男性。何度か名状しがたき体験をした結果、車および電車恐怖症(閉所恐怖症)と反芻言語、とある人物への恐怖症を発症している。また、謎の空間でとある少女を殺害したことを密かなトラウマとして抱えている。クトゥルフ神話技能9。

 

 

 

「新年のご挨拶は実家にて」

 

 先程まで耳に当てていた受話器を置き、深々と溜め息を漏らした。
 近くにあった受付用の椅子に座り、どうするべきか十数秒考えを巡らせる。しかし、妙案は思い浮かばなかった。簡単に解決できる問題なら自力でどうにかしているが、この手の謀が不得手な自分には打つ手が思いつかない。
「行ってきたらどうですか」
「き、聞いてたんですか!?」
 突然背後から声をかけられ、堪らず声をかけてきた人物へと向き直る。白衣を羽織り、薄く微笑む三十代程の男性は「別に盗み聞きするつもりはなかったんですが」と、特に悪びれた様子もなく答える。
「で、どうするんですか? ご実家からでしょう、今の電話」
「それは……」
 男性の言う通り、先程の電話は実家の母からかかってきたものだ。内容としては「一日くらいは実家に帰ってきなさい」という催促。例に漏れず、草加診療所も三が日まで休業日であり、それを察知した母から釘を刺されたのだ。確かにここ数年、多忙を理由にまともに顔を見せていなかったのだが、今年は事情が違う。
 今の草加診療所には「草加翡翠」という同居人がおり、彼女の存在を実家に一切伝えていないのだ。自分一人だけで実家に帰省するのは容易いが、いずれは「空から降ってきた元機械人形」という不可思議な存在について説明せざるを得なくなる。
 と、再度苦悩しかけた眼前に書類が突き出された。普段は見慣れないだろう「それ」は、草加の前にいるこの男性、ミフネ・ムレーヌが昔馴染みの伝手を頼って偽装した翡翠さんの戸籍謄本だった。
「いい機会です。これを持って『親も兄弟も知らない遠い親戚の子を預かることになりました。報告が遅れてごめんなさい』って報告しに行ってください」
「え、いやそれは……」
「私だって草加さんが不在中に『偶然』来院した草加さんの身内に『草加翡翠』さんという『同姓』で『同居中』の『異性』で、しかも『未成年』について説明を求められたら嫌ですからね」
 ぐうの音も出ない正論だった。そもそも、自分の実家は都内にある。ミフネさんの言うような状況になる可能性は十分にある。むしろ、今までよく翡翠さんと自分の親族が遭遇しなかったものだ。
「そ、そもそも『草加』なんて珍しい同姓にしなければここまで面倒な話にはならなかったんじゃ……」
「仮にそうした場合、事情の知らない患者さんから『あの医院は未成年の女の子を学校にも行かせず家に住まわせている』って噂になりますよ? 一度噂になったものはそう簡単には消えませんし、いらない尾鰭も付きます。身分を隠して静かに暮らそうとするなら、全く関係ない名前を付けるより、他人が関係性を勝手に勘違いしてくれる名前にする方が楽なんですよ」
 さすがは元闇医者。こういう言い方は失礼だろうが、説得力が段違いだ。うまい具合に逃げ道を封じられているような気もするが、彼が自分や翡翠さんのことを考えて行動してくれているのは十分理解できる。それなら、自分が何もしないわけにはいかないだろう。
「分かりました。これも何かの機会でしょうし、罪悪感を押し殺して行ってきます」
「はい、どうぞ行ってきてください。緊急対応できるように医院にいるつもりですから、急患の連絡が来ても帰ってこなくていいですので気兼ねなく」
 有り難い話ではあるが、それにしても用意周到すぎやしないか。そう言いたくなる気持ちを押し殺し、突き出された戸籍謄本を渋々受け取った。

 

 「怜兄が実家に女性を連れてくる」という話を少し興奮気味の母から聞いたときは、思わず携帯電話を落としかけた。ただ、詳細を聞けば、どうやら預かっている遠縁の親戚の子どもを連れてくるだけらしい。
 そうはいっても、俺の知る限り草加家の親戚で十七歳の少女なんて聞いたことがない。怜兄に限って未成年に手を出したとは思えないが、それにしても唐突な話だった。興味本位で軽く調べてみたら、確かに「草加」という苗字の少女らしい。珍しい苗字ではあるが、俺の家族以外に見かけないというものでもない。
 ともかく、兄弟が揃うだなんて本当に久しぶりのことだ。相変わらず客の少ない探偵事務所を年始に合わせて早々に閉め、身支度を整えてから実家に向かってバイクを走らせた。
 然程混んでいない道を走ること一時間程度、昭和な雰囲気を醸し出す和風の二階建ての屋敷までやって来た。門の奥にバイクを停め、引き戸の玄関扉をガラリと開ける。数年ぶりに帰省したとはいえ、特に変わり映えもしない実家の様子に少しだけ安堵する。
 居間に行けば、年始でも変わらず背広に身を包んだ男性が一足早く炬燵に座って暖を取っていた。俺よりも一回り年上のはずなのに兄弟の中で最も身長が低く、そして誰よりも真面目な長男だ。
「葵か、久しぶり」
「久しぶり。隼兄も相変わらずだな」
 相変わらず、という言葉に対して隼兄は苦笑いを浮かべるだけに留め、炬燵に入った俺に対して蜜柑を差し出す。それを受け取って皮を剥きながら話を切り出した。
「母さんから聞いたか? 怜兄が未成年の女の子連れてくるって。そんな趣味だったっけ」
「趣味な訳ないだろ。お人好しな怜のことだから、断れずに預かってるだけだろう」
 冗談のつもりで言ったのだろうと思ったのか、隼兄はそれ以上追求してはこなかった。隼兄が三兄弟の中で最も真面目な人種なら、怜兄は三兄弟の中で最もお人好しな人種だ。誰某構わず、自分が助けられる範囲であれば助けようとする次男にとって、医者という職業は天職だった。そんな怜兄に対し、隼兄が良からぬ想像をするはずがなかった。
「最近はどうなんだ、仕事は順調か?」
「仕事? いや、別に変わったことは、何も……」
 仕事関係は普段通り、特に変わりない。ただ「それ以外」では決して良いとは言えない。過去に自分が巻き込まれた幾つかの事象は、今も尚暗い影を落としている。
「どうした、顔色悪くないか」
「わ、悪くねえよ。そういう隼兄はどうなんだよ。家族で集まろうだなんて急に言い出したの、隼兄なんだろ?」
「ま、まあそうなんだが……何度も死ぬような目に遭うくらいなら、今の内にやりたいことをやるべきだと思ってな」
「隼兄こそ何言ってんだよ。人は、一度死んだら生き返らねぇよ」
「あ、ああ……そうだな」
 何とも不可思議な会話だと思ったが、隼兄の表情が至って真面目だったので茶化すことも憚られた。それに「一度死んだら生き返らない」だなんて、未だに後悔している自分に気付き、舌打ちしたい気分になった。
 二人の間を支配した妙な沈黙は、玄関扉をガラリと開けた音によって途絶えた。母さんは料理の準備のために台所に、父さんは二階の自室にいるはずだ。そうなれば、可能性は一つしかない。
「二人共、もう来てたのか」
 居間に顔を見せたのは怜兄だった。隼兄とは違って仕事着ではなく、セーターにズボンという至ってシンプルな服装だ。そして、怜兄の後ろで見え隠れする影が一つ。
「その子が、例の遠い親戚の子どもか」
「ああ。兄の隼人と、弟の葵だ。二人共、彼女は草加翡翠さん」
「初めまして、草加翡翠です。よろしくお願いします」
 少女は怜兄の後ろからおずおずと一歩前に出て、俺達に頭を下げた。透き通るような白髪とこちらを見つめる琥珀の瞳が印象的な子だ。黄色を基調としたシンプルなワンピースが、少女の可愛らしさを更に引き立たせている。
「ところで、二人だけか? 父さんと母さんは?」
「父さんは部屋。母さんは台所」
「じゃあ、先に母さんだな。二人には後で事情を話すから」
 そう言うと、怜兄と、翡翠と名乗った少女は居間の奥へと消えていった。奥には台所があるので、母さんに話をしに行ったのだろう。それにしても、あんな可愛い子をどうして怜兄が預かることになったのか。
「随分と可愛い子だな。礼儀も良さそうだし」
「……礼儀は、な」
 少しの引っかかりを覚えながら、俺は皮を剥いた蜜柑を一切れ口の中に放り込んだ。


 日頃の行いは大切なものだとしみじみと感じた一日だった。
「遠縁の親戚が、都合により家族全員で海外に行かなければならなくなった。しかし、翡翠さんは日本を離れたがらなかった。そこで、未成年である彼女を自分が引き取ることになった」
 自分でも無茶な言い訳だと思ったが、ミフネさんならいざ知らず、人を騙すことに疎い身としてはこれが限界だった。ただ、父さんは持参した戸籍謄本を見て納得してくれたし、母さんに至っては詳しい話をする前にお節料理を手伝ってくれた翡翠さんのことを可愛がっていた。母の指南の下で作った翡翠さんのお雑煮を「美味しい」と言って褒めている兄の隼人の様子を見る限り、こちらも問題はないだろう。
 ただ一人、翡翠さんに疑惑の目を向けている弟の葵を除いて。
「なあ、怜兄。ちょっといいか」
 夕食に母さんのお節料理と翡翠さんのお雑煮を頂いている間、葵から呼び出された。葵の後を追いかける形で、居間を離れて縁側へと移動した。縁側には雲間から月明かりが射し込んでおり、遠くから僅かだが居間で騒ぐ声が聞こえてくる。
「どうしたんだ?」
「どうしたんだ、じゃねえよ。怜兄、嘘吐いてるだろ」
 咄嗟に言葉が出てこなかった。葵の言葉はひどく静かで、それでいてこちらを見透かしたような声色だった。
「一応、これでも探偵だからな。人の嘘には敏感なんだよ」
 葵はまっすぐにこちらを見つめている。明らかにこちらの言い分が偽りであると見抜いているのだろう。草加家の三兄弟の中で最も才能に恵まれているのが葵だ。側から見れば何かと斜に構えて気楽そうに見える弟だろうが、物事の機微を見抜く力には特に優れている。
「怜兄が誰かに騙されたり脅されたりして嘘を吐いてるとも思ったけれど違うみたいだし……それなら、嘘を吐く理由は一つしかないはずだろ」
 自分ではこれ以上隠しきれないだろう。一つ軽く息を吐き、徐に口を開いた。
「……翡翠さんのため、だよ」
「その翡翠さんだけど、少し調べた限り日本育ちだった。それにしては、お節やお雑煮を見て随分と驚いてたよな。まるで、実物を見るのが初めてみたいに」
 葵には翡翠さんの戸籍謄本を見せていない。考えられるとすれば、実家に帰る前に別の手段を用いて調べたのだろう。
 実際、翡翠さんにとっては初めての正月だ。もちろん、知識はあるだろうが経験はない。記憶があっても実物を見たことがない。当然、それを見れば興奮してしまうのも仕方ないことだ。さらに「これが草加さんのご実家の味ですか」と意味深長に頷きながらお雑煮の味付けをしていたので、葵がそれを不審に思うのも理解できないわけではない。
「怜兄。変なことを聞くかもしれねえけど……本当はあの子、何者なんだ?」
 単純に察しがいいのか、それとも翡翠さんを怪しむが故の言動か。自分の身に起きた常識では語れない不可思議な体験が脳裏に浮かび、どのように答えればいいのか反応に困った。ただ、どんなに考えても答えは一つしか思いつかなかった。
「彼女は人間だよ。ちょっと世間に疎い割に好奇心が旺盛で料理が好きな、普通の女の子だ」
「人間の女の子、か……」
 一瞬、こちらの言葉を聞いた葵が妙な感傷に浸っていたような気がしたが、気のせいだろうか。
「……分かった。これ以上は何も追及しねえし、父さんや母さん達に告げ口もしない。ただ、何か困ったことがあればいつでも言えよ」
「ああ、すまないな」
「すまないなんて謝るくらいなら、せめてもっとマシな嘘吐けって。あんなので何も言わないの、うちの家族くらいなもんだぞ」
「そ、それは……うん、悪かった。じゃあ先に戻るからな」
 自分でも無茶だと承知の上だったので葵の言い分には素直に頷くしかなく、きまりが悪くなって足早にその場を後にした。


 怜兄を呼び出したのは他でもなかった。怜兄が家族に嘘を吐いてまで同居させようとしている少女が何者なのか、直接問い質そうと思ったからだ。
 職業柄いろんな人を見てきた経験と過去に巻き込まれた理不尽な体験から、彼女は「何かが違う」と感じたのだ。それこそ、言葉では言い表せないような「何か」そのものであるかのように。
「どうしたんだ?」
「どうしたんだ、じゃねえよ。怜兄、嘘吐いてるだろ」
 前置きもなく言い放った言葉に、怜兄は明らかにたじろいだ。ほんの少しだけ抱いていた期待は脆くも崩れ去った訳だが、逆にもっと気になってしまう。嘘を吐くのが苦手な怜兄にここまでさせるあの少女は、一体何なのか。
「一応、これでも探偵だからな。人の嘘には敏感なんだよ。怜兄が誰かに騙されたり脅されたりして嘘を吐いてるとも思ったけれど違うみたいだし……それなら、嘘を吐く理由は一つしかないはずだろ」
 そこまで言って怜兄の答えを待つ。しばらくして何か諦めたかのように一息吐くと、徐に口を開いた。
「……翡翠さんのため、だよ」
「その翡翠さんだけど、少し調べた限り日本育ちだった。それにしては、お節やお雑煮を見て随分と驚いてたよな。まるで、実物を見るのが初めてみたいに」
 出発前の調べ物がこんなところで役立つなんて皮肉としか思えなかったが、それがあったからこそ少女の言動に違和感を覚えたと言ってもいい。考えすぎかもしれないが、やはりあの少女には何かあるのではないか。
「怜兄。変なことを聞くかもしれねえけど……本当はあの子、何者なんだ?」
 「何者か」というより「何か」と聞きたかったが、さすがに憚られた。思い出しただけで怖気立つような、あんな不気味な体験をするのは自分だけで十分だ。
「彼女は人間だよ。ちょっと世間に疎い割に好奇心が旺盛で料理が好きな、普通の女の子だ」
 しかし、怜兄の返答は予想に反して穏やかで、それでいて胸がすくような一言だった。今の怜兄の言葉に嘘はない。紛れもなく怜兄の本心だと確信が持てた。
「人間の女の子、か……」
 ふと、夢か現か判別できない空間での記憶が蘇る。もし、あの時何かしていれば彼女を救えたのだろうか。そんな選べなかった未来を想像しそうになった自分に気付き、慌てて話を戻した。
「……分かった。これ以上は何も追及しねえし、父さんや母さん達に告げ口もしない。ただ、何か困ったことがあればいつでも言えよ」
 怜兄が本心から「普通の女の子」だと言うのなら、すぐに息巻く必要はないだろう。結果的に、俺はそう判断することにした。
「ああ、すまないな」
「すまないなんて謝るくらいなら、せめてもっとマシな嘘吐けって。あんなので何も言わないの、うちの家族くらいなもんだぞ」
「そ、それは……うん、悪かった。じゃあ先に戻るからな」
 そそくさと退散した怜兄の背中を見送り、俺も居間に戻ろうとして振り返る。
「……で、怜兄がああ言う以上は何も言わねえけど、それはそれとして盗み聞きはよくないだろ」
 図星を突かれて焦ったのか、縁側の曲がり角の奥から僅かに物音が聞こえる。しばらくすると、白髪の少女……翡翠がおずおずと顔を覗かせた。
「ご、ごめんなさい。そんなつもりはなかったんです……」
 翡翠が持っていたのは、先程まで居間で振る舞われていたお雑煮が入っていた小鍋だ。恐らく、台所まで追加の具材を取りに行こうとして縁側を通りかかったのだろう。この家の構造上、縁側を通らなければ台所まで辿り着けない。俺と怜兄が話しているのを見かけ、どうしようか考えあぐねていたようだ。
「……そんなつもりがないことは何となく分かったから、そんなに落ち込むなよ」
 先程まで彼女のことを警戒していた身としては、面と向かって話すのは何となく気が引けた。こちらの思いを知ってか知らずか、翡翠は無邪気に笑いかけてくる。
「優しい方なんですね、葵さん」
「はぁ? 優しい!?」
 予想外の言葉に思わず語尾が荒げた。知り合いは勿論のこと、家族からもほとんど言われたことがなく、捻くれ者の自分とは不釣り合いな言葉だ。
草加さんのことを心配して、ああして言ってくださったんですよね」
「心配? 怜兄が何をそんなに隠してるのか気になっただけだっての」
「やっぱり草加さんの弟さんなんですね。そっくりです」
 毒気が抜けるというか気が抜けるというか、彼女が見せる純粋な反応は捻くれ者の身としてはどこか眩しかった。
 だから、つい口を出したくなったのかも知れない。勿論いい意味で、だ。
「……『草加さん』って呼び方」
「はい?」
「はい、じゃねえよ。ここに何人の『草加』がいると思ってんだ。兄貴の名前は知ってるんだから呼べばいいだろ」
 何ならお前も『草加』だろ、と心の中で呟いていると、先程まで何を言っても微笑みを絶やさなかった翡翠が途端に戸惑いつつも目線を逸らしているのに気付いた。こちらの視線に気付き、至極困ったことのように尋ねてくる。
「何故か分からないんですが、『怜さん』って言いにくいんです。私、何かがおかしいんでしょうか……」
「言いにくいっていうか、それって単に恥ずかしいだけじゃないのか?」
 俺に言われたことがそんなに驚いたのか、翡翠は目を何度も瞬きさせた後、顔を赤らめて目を伏せてしまった。怜兄の反応見たさで提案したのだが、まさかここまで初々しいとは。言った側からちょっとした罪悪感に襲われてしまう。
「雑煮って結構重いだろ。帰りくらいは俺が持って……っ」
 せめてもの償いとして翡翠の持っていた鍋を取り上げるべく手を伸ばそうとして、不意に目の前の少女と別の少女の面影を被らせてしまう。
 直後、差し伸べた自分の手が真っ赤に染まっていることに気付いた。咄嗟に引っ込めようとした手に握られている銀のナイフが鮮血で赤く染まっている。先程まで何もなかった服はすっかり返り血に塗れていた。
 喉から出しかけた声を辛うじて押し止められたのは、誰かが血塗れの手を握りしめた感触があったからだ。
「落ち着いてください、大丈夫ですから」
 目の前にいる少女が、両手で俺の手をぎゅっと握りしめている。こちらを見上げる琥珀色の瞳は、足下に落ちた小鍋にも目をくれずに俺の顔を映し出す。手から伝わってくる人の温かさを感じてふと自分の手を見れば、先程まで見えていた返り血もナイフも無くなっている。過去の出来事がフラッシュバックしただけだと自分の理解が追いつくまでには、少し時間がかかった。
「平気、ですか?」
「……平気、だよ」
 俺の顔色を伺う翡翠の手を軽く振り解き、平静を装いながら返事をしたが、翡翠は尚も疑念の眼差しを向けてくる。
「嘘です。まだ顔色が悪いです」
「嘘じゃねえから、もういいって。どうにかなるもんでもねえよ」
 自分自身、いい顔色ではないだろうというのは察しが付く。ただ、こればかりはどうしようもない。それこそ、あんな結末を迎えてしまった不甲斐ない自分にお似合いの末路なのだ。
 ふと、足下に転がっていた小鍋に気付き、拾い上げる。ステンレス製の小鍋は割れておらず、残った雑煮の汁が僅かに底にあるだけだ。あの時、翡翠はこれを床に放り投げてまで、混乱する自分の手を握ってくれたのだろう。
「……ありがとう」
 思わず口から漏れてしまった一言が彼女の耳に届いていないことを切に願いつつ、拾い上げた鍋を小脇に抱える。
「ほら。とっとと雑煮取りに行かねえと、そろそろ父さん辺りが騒がしくなる頃合いだぞ」
「はい」
 やけに嬉しそうな笑みを浮かべた翡翠を連れて、俺達は台所へと向かった。


翡翠ちゃん。お雑煮取りに行ってくれないかしら」
「はい、分かりました」
 草加さんのお母様から空の小鍋を預かり、居間を出る。台所に向かって少しだけ肌寒い廊下を歩いていると、行き先から誰かの声が聞こえた。
「……随分と驚いてたよな。まるで、実物を見るのが初めてみたいに」
 縁側では草加さんと、草加さんの弟だという葵さんの二人が何やら話をしている。確か、この縁側の奥に台所があるはずだが、やけに緊迫した雰囲気の二人の間を割ってのは躊躇われた。
「怜兄。変なことを聞くかもしれねえけど……本当はあの子、何者なんだ?」
 心臓が一段と跳ねた気がした。何者か、と言われれば私自身上手く答えられない。人ではない存在が創り出した、人間の真似事をして動く機械人形だったもの。本来であれば、ここにいることすら叶わなかった物だ。
 草加さんは、何て言うのだろうか。
「彼女は人間だよ。ちょっと世間に疎い割に好奇心が旺盛で料理が好きな、普通の女の子だ」
 それがいかにも当たり前のような、自然な声色だった。自分の知る限り、草加さんは人を貶めるような嘘を吐く人でない。この言葉は紛れもなく草加さんの本心で、だからこそ自分の胸の奥が熱くなるのを感じた。
「人間の女の子、か……」
 一瞬返答に困ったのか、葵さんが何かを思い悩んだような気がしたが、すぐに元の調子で言葉を紡いだ。その時には既に、二人の間を隔てていた張り詰めた空気は消え失せていた。
「……分かった。これ以上は何も追及しねえし、父さんや母さん達に告げ口もしない。ただ、何か困ったことがあればいつでも言えよ」
「ああ、すまないな」
「すまないなんて謝るくらいなら、せめてもっとマシな嘘吐けって。あんなので何も言わないの、うちの家族くらいなもんだぞ」
「そ、それは……うん、悪かった。じゃあ先に戻るからな」
 そう言って先に草加さんが居間へと戻って行った。あとは葵さんが離れてから台所に向かおうと考えていたが、予想に反して彼はその場で振り返る。
「……で、怜兄がああ言う以上は何も言わねえけど、それはそれとして盗み聞きはよくないだろ」
 いつから気付いていたのだろうか。一歩、後ろに引き下げた足下の床が僅かに軋んで音を立てる。
 あからさまに音を立ててしまった以上、このまま何もなく立ち去れるとは思えない。意を決し、私は曲がり角の奥から飛び出した。
「ご、ごめんなさい。そんなつもりはなかったんです……」
 先程まで私のことを信用できないと宣言していた相手に信じてもらえるかは分からないが、ともかく正直に事情を伝えるしかない。
「……そんなつもりがないことは何となく分かったから、そんなに落ち込むなよ」
 ただ、何故かは分からないが、葵さんはそれ以上の話をしなくても構わないと先んじて言ってくれた。確か、自己紹介の時に職業が探偵さんだと仰っていたので、何かを察してくれたのかも知れない。
 そう思いながら、草加さんよりも高い位置にある彼の顔を見上げれば、先程草加さんと話していた時に比べて少しだけ落ち込んでいるように見えた。ひょっとして、私を疑ったことを後ろめたく思っているのだろうか。
 元はと言えば、私が普通に生活できるようにと草加さんとミフネさんがいろいろしてくれたとはいえ、怪しいのが当たり前なのだ。葵さんが私のことを警戒するのも、草加さんのことを心配するのも、間違ったことではない。
 でも、葵さんは草加さんの言葉を信用して、私に対して気を配ってくれたのだろう。
「……優しい方なんですね、葵さん」
「はぁ? 優しい!?」
 彼はやけに動揺したようで語尾を荒げたが、私からすれば至極当然のことのように思えた。
草加さんのことを心配して、ああして言ってくださったんですよね」
「心配? 怜兄が何をそんなに隠してるのか気になっただけだっての」
「やっぱり草加さんの弟さんなんですね。そっくりです」
 自分よりも他人のことを考えるところとか、何気なく人に優しくできるところとか、本当にそっくりだと思う。ただ、当の葵さんは何故か気まずそうに肩を竦めた後、話題を変えてきた。
「……『草加さん』って呼び方」
「はい?」
「はい、じゃねえよ。ここに何人の『草加』がいると思ってんだ。兄貴の名前は知ってるんだから呼べばいいだろ」
 言われてみればそうかもしれない。私も『草加』という名字を名乗っていいことにしてもらえたので、このままだと被ってしまう。草加さんは私のことを「翡翠さん」と呼んでくれるのに、私だけ名前で呼ばないのもおかしな話だ。
 「怜さん」と、心の中で呟いてみる。途端に、何故かよく分からないが頬が火照るような気がした。
 ふと、視線を感じて見上げれば葵さんが何度か横目でこちらを見ていた。
「何故か分からないんですが、『怜さん』って言いにくいんです。私、何かがおかしいんでしょうか……」
 今の気持ちを正直に伝えてみたら、葵さんは少し驚いたような表情を浮かべたものの私の疑問にすぐ答えてくれた。
「言いにくいっていうか、それって単に恥ずかしいだけじゃないのか?」
 草加さんのことを名前で呼ぶだけなのに躊躇われる。でも、草加さんがどんな風に反応してくれるのか気になってしまう。対立する二つの思いが私の中でせめぎ合っている。でも、胸に詰まったこの気持ちは決して嫌なものではない。これが「恥ずかしい」という気持ちなのだろうか。
「雑煮って結構重いだろ。帰りくらいは俺が持って……っ」
 私が悶々と悩んでいるのを見かねてなのか、葵さんが言葉を投げかけて、しかし不自然に途切れる。違和感を覚えて視線を向けると、葵さんの様子がどこかおかしいのはすぐに分かった。
「あ、葵さん……?」
「……だ、違う、そんなつもりじゃ……」
 明らかに「何か」に怯えている。一瞬、私に対して怯えているのかと錯覚したが、葵さんの目線は私に向いていない。まるで葵さんだけに別のものが見えているように、握り締めている物を手元に引き寄せて……。
「葵さん!」
 嫌な予感がして小鍋をその場に放り捨て、私は葵さんの手を掴んだ。
 その瞬間、葵さんは我に返ったようで、握られた手と私の顔に視線を向けてくれた。わたしはほっと溜め息を吐きつつ、呼吸を整えて動揺が表に出ないように努めながら声をかける。
「落ち着いてください、大丈夫ですから」
 葵さんの手を両手で強く握りしめていると、彼の手の震えが少しずつ収まっていくのが分かった。荒い呼吸も何とか整いつつある。
「平気、ですか?」
「……平気、だよ」
 と、葵さんは私の手を軽く振り解き、その手を虚空でひらひらと揺らして返答する。先程のような怯えた様子は見られなかったが、顔色はやや悪く、体調的に万全であるとは思えなかった。
「嘘です。まだ顔色が悪いです」
「嘘じゃねえから、もういいって。どうにかなるもんでもねえよ」
 でも、と更に言葉を紡ごうとした私は、彼の表情を見て咄嗟に口を噤んだ。葵さんはやけに寂しそうで、ただどこか割り切っていることに気付いてしまったのだ。
 これは、私が干渉していい問題なのではないのだろう。カウンセリングなどの精神療法で解消するとしても、彼自身それを望んでいない。優しい彼は、何があったとしても最期まで自分の問題として抱え込むつもりなのだろう、と。
 私が呆気に取られている間に、葵さんは足下に転がっていた小鍋に気付き、拾い上げる。その時、彼の口から「……ありがとう」と溢れたのが聞こえてきた。それが誰に対して発せられたものなのか、彼が気まずそうに横目でこちらを見ていることから予想がついてしまった。
「ほら。とっとと雑煮取りに行かねえと、そろそろ父さん辺りが騒がしくなる頃合いだぞ」
「はい」
 事実とはいえ「優しい」と言ってしまえばまた気を悪くするだろうから、せめて返事だけは元気よく返し、台所へ向かう彼の後を追いかけた。

 

 当初、日帰りの予定のはずだったのだが、昨晩は実家で一泊することになってしまった。母が翡翠さんを気に入ったのも原因の一つだが、やはり翡翠さんが和式の建物や家具に興味を引かれていたことが大きかった。診療所の二階にある居住空間に和室はないし、フローリングの床で布団を敷く機会は終ぞなかった。畳の上でごろごろ嬉しそうに寝転がる彼女の姿を見て「すぐに帰ろう」と言い出しにくいのも仕方ないことだと思う。
 内心、こうして実家に帰省している間も診療所に控えてくれているであろうミフネさんに頭を下げながら連絡を入れたら「ご勝手にどうぞ」と返信がきた。最近は頼ってばかりだな、と反省しつつお言葉に甘えることにした。
 次の日の朝食後、車の暖房を入れておこうと外に出ると、近くからエンジン音が聞こえてきた。少し顔を覗かせれば、敷地内に停めてあったスクーターバイクのサドル部分の収納からヘルメットを取り出す葵の姿があった。
「もう帰るのか?」
「ああ、先に帰る。実家で寛いでいるのも飽きたしな」
「そんなこと言って、また母さんに小言を言われるの嫌なんだろう?」
「嫌に決まってるだろ」
 そう言って、葵は悪戯をしでかした子どものようなバツの悪い笑みを浮かべる。こういうところは小さい頃から何も変わっていない。
「……バイクの免許取ったのか」
「ああ。免許って楽に取れるもんなんだな。気ままに動けるから結構便利だよ」
「そうか……」
 言葉がうまく繋がらず、不自然な間が続いた。昨日の今日で何と言っていいのか言葉に詰まってしまう。
「……怜兄、そんな気に病むことねえよ。逆にそうやって気まずい雰囲気出される方が嫌なんだけど」
 不意に葵が放った言葉にハッとさせられた。一方的に隠し事をしている状況ではあるが、だからと言って無理に壁を作る必要はないのだ。こちらの事情を推し量った上で「それでもいい」と言ってくれたのなら、その気持ちに応えないことこそ嘘だろう。
「……次は気を付けるよ」
「そういうところ律儀だよな。じゃあな怜兄、あの翡翠とかいう奴にもよろしく」
「分かった」
 こちらの返事を聞いて満足気に微笑んだ葵は、抱えていたヘルメットを被り、バイクを走らせて行ってしまった。
「……葵さん、帰っちゃったんですか」
「ああ。『翡翠さんによろしく』って言ってたよ」
 バイクの影を見送っていると、後ろからかけられた言葉に反応して振り向けば、翡翠さんが実家の方から駆け寄ってくるところだった。
「そうですか、ご挨拶したかったんですけれど……残念です」
「またお盆に会うことになるさ」
「お盆ですか。そしたらまた連れてきてくださいね、怜さん」
「それはもちろ……んん??」
 今のは聞き間違いか? そう思って翡翠さんの方を向けば、彼女も若干恥ずかしそうにこちらを見上げていた。
「あ、葵さんに言われて言ってみたんですけれど、やっぱりおかしいですか?」
 あの生意気な弟め、翡翠さんになんてことを教えたんだと心中で毒付く。学生時代ですら友人に名字で呼ばれることの方が多かった身だ。それなりに大人と言える年齢になって名前で呼ばれるというのは、やはりどこか気恥ずかしい。
 ただ、嫌な気分にはならなかった。
「……いいや、翡翠さんが言いやすいならいいんじゃないかな」
 翡翠さんが言いたい呼び方でいいよ、と付け加えれば、彼女は安心したように軽く一息吐いてから「これでお揃いですね」と、嬉しそうに微笑んだ。
 彼女から差し出された手をそっと握り返す。名前呼びの気恥ずかしさが抜けないまま、翡翠さんと一緒に荷物を取りに実家へと戻った。

短編二次創作「シーライトの希い」

今月末に忙しさのピークを迎えつつある猫です、こんにちは。

 

先日、にこいち様制作「オートマタは星に願う。」というシナリオにPLとして参加した猫ですが、セッション終了後に後日談を書きたい衝動が興り、気がついたら短編小説が出来上がっていました。久々にこんな速筆で小説を書いた気がします。

執筆の際には、Fate/Grand Order楽曲(OST)「君の願い」、BUMP OF CHICKEN「カルマ」、坂本真綾「逆光」をリピートしながら書きました。興味がある方はぜひお聴きください。

枕草子ではありませんが、初めは身内以外に見せるつもりではなかったため、猫の探索者及び他の方の探索者との交友関係を多分に含む自己満足短編となっております。一応、簡単な人物紹介を付けておきますが、読まなくてもそれとなく大雑把な空気は味わっていただけるかと思います。

あらかじめ言っておきますが、人物紹介の内容は一切盛っていません。


KPをしてくださった上、探索者の使用を二つ返事で許可してくださったぴーさん。短編執筆にあたって無茶な台詞発注を快く引き受けてくださったツキナミさん。そして、短編掲載を許可してくださった作者のにこいち様。お三方に最大限の感謝を込めて。

拙い文章ではありますが、読者の方々に少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

 

 

 


※以下、にこいち様制作「オートマタは星に願う。」のネタバレを含みます。その旨ご承知おきの上、どうぞご覧ください。

 

 

 


【人物紹介】

草加怜(34歳男性/医者/PL:猫)

https://charasheet.vampire-blood.net/1407615

本セッションPC参加。草加診療所という名の小規模な診療所を営む医者。重度のお人好しにしてPLが匙を投げる程の鈍感系主人公。一時期、深緑と同居しており、非常に可愛がっていた。クトゥルフ神話技能28。


ミフネ・ムレーヌ(30歳男性/薬剤師/PL:ツキナミ)

https://charasheet.vampire-blood.net/1658770

毒吐く(元)闇医者。深緑を異世界から助け出し、彼女の戸籍を用意して草加怜に託した人物。いつの間にか本人も草加診療所に転がり込んでいた。クトゥルフ神話技能27。


小鳥遊悠(22歳男性/作家/PL:ぴー)

https://charasheet.vampire-blood.net/1868038

巷で売れっ子の作家。異世界草加深緑に助けられて生還を果たす。その後、鳩となった深緑と共に生活しており、たまに草加診療所に顔を出してくれる。クトゥルフ神話技能28。


深緑(みどり)(17歳少女/放浪者/PL:???)

https://charasheet.vampire-blood.net/1658254

異世界でミフネに助けられた白髪紅眼の少女。その後、草加怜と共に同居を始めたが、小鳥遊悠を助けるために犠牲になった結果、白鳩になった。現在は小鳥遊の下で生活している。


翡翠(ひすい)(17歳少女/???/PL:???)

https://charasheet.vampire-blood.net/2125433

突如、草加怜の前に現れた少女。元々は人造人間とでも呼ぶべき存在だったが、奇跡的に一命を取り留め、人間として復活した。現在は草加と同居している。瞳が琥珀色ということ以外、深緑と瓜二つの容姿をしている。草加のことは命の恩人として慕っている。


柊杠葉(23歳女性/大学院生/PL:猫)

https://charasheet.vampire-blood.net/1884649

高校時代から一途に草加怜のことを想い続けている女性。全国大会に出場する程の腕を持つ射手。クトゥルフ神話技能6。今回の一件でPL達から付けられた渾名は「不憫」。

 

 

 


【シーライトの希い(ねがい)】

 

「……さん、草……ん、起きてください」

「ん……」

 誰かに呼ばれた気がした。重い目蓋を開き、視界が開けると、白髪に琥珀色の瞳の少女がこちらを覗き込んでいる。

「おはようございます」

 そう言って微笑む少女。幻視する。ほんの少しだけ、面影が重なる。

 ああ、今度こそ、守れたのか。一瞬だけそんな淡い思いを馳せ、しかしそんな思いを即座に否定する。

 この子と彼女は違う。「今度こそ」ではなく「今回は」なのだ。

「おはよう、翡翠さん」

 言い間違えないように、目の前にいる少女の名前を告げる。翡翠、と呼ばれた少女はこくんと頷き、こちらの手を取って起き上がるように促した。

 ほんの少し前、一瞬とはいえ冷たく無機質な物体と化したその手には、確かに人間としての温かさを感じた。

 


 翡翠さんは、オムライスに凝っている。

 初めて出逢った日の夜に自分が作ってあげたのがよほど美味しかったのか、「きっとあの時以上に美味しいものを作ってあげますから」と何度も挑戦しては撃沈している。彼女と生活を共にしてから然程日数は経っていないが既にその日数の倍は朝食と夕食に並んでいるだろう。

 そして今日もまた、彼女の練習の成果が朝食として皿の上に並べられている。回数を重ねる毎に彼女のオムライスは少しずつ完成形に近づいている。最初に出てきたオムライス……というより焦げたコッペパンに似た物体に比べれば、今日のそれは紛れもなくオムライスで、味付けも申し分ない。若干の飽きが来ていることを否定はしないが。

 しかし、肝心の本人は一口食べてから何故か不満げな表情を浮かべている。

「……草加さん。私のと草加さんの料理、何が違うんでしょうか」

 反応に困る。あの時は奇跡的な確率で自分でも驚くほど美味しいものができただけで、もう一度あれを再現しろと言われてもできる自信がない。なんというか、光る石を必死で探したとき並に奇跡的な確率ではないだろうか。

 こちらの葛藤など露知らず、翡翠さんはこちらの返答を少々上目遣いで待ち構えている。そればかりか、頬に空気を溜め、不機嫌そうな目を向けたままじりじりと迫ってくる。そんなこと一体どこで覚えてきたのか。

 何にせよ、答えないわけにはいかない雰囲気だ。言葉にするのは少々堪えたが、数十秒悩んだ末にようやく口を開いた。

「……どれだけ、相手のことを考えているか、ですかね」

「相手のことを、考える……?」

「どんな味が好きなのか、逆にどんな味が苦手なのか。初対面の人はもちろん、大切な人であれば、誰もが美味しいものを食べてもらいたいと思うでしょう?」

「はい。そうだと思います」

「それができるようになったから、翡翠さんの料理は少しずつ上手になっているんです。私にとって、今日はこれまで以上に私のことを想って作ってくれたんだと感じました。だから、自信をもっていいんですよ」

 嘘偽りなく、故に最大限の感謝を込めて告げた言葉。それを聞いた翡翠さんが嬉しげに微笑んだのを見て、自然と自身の頬が緩んでいるのを感じた。

 


 二人で朝食をとった後、すぐに身支度を整えた。洗濯した白衣に袖を通して紺のネクタイを締めれば、普段診察で着ている仕事服の完成だ。

 一呼吸入れ、自宅の扉を開けて下の階にある診療所に続く階段を下りる。その後を、看護師用の白衣に着替えた翡翠さんが追いかけてきた。

 これまで自分の仕事に関して何か頼んだことはなかったが、翡翠さんが「草加さんのお手伝いをしたいです」と言って聞かないので、数日前から待合室で患者さんの話し相手をお願いすることにしたのだ。

 ただ、意外にもお年寄りの方々と話が合うようで、常連の患者さん(何も知らない人達には、翡翠さんのことを「遠い親戚の双子の妹」として紹介している)ともすぐに打ち解けたらしい。

 先日、どんな話をしているか聞き耳を立ててみたら、平日の午後に放送されている恋愛ドラマの話で盛り上がっているようだった。自分はその辺りの知識に疎いので、彼女にとっても話し相手ができてよかったと密かに思っている。

「おはようございます、草加さん」

 階段を下りて診察室に向かう途中で、同じく白衣を羽織った男性から声をかけられた。薄く微笑む三十代程のその男性は、こちらの顔色を伺いつつ、さらに言葉を続ける。

「昨晩は夜間対応してたのにこんな時間に起きて大丈夫なんですか? 寝惚け眼で患者さん診るなんてことないようにお願いしますよ」

 彼は自分よりも年下で、仕事でも一応上司と部下の関係のはずだが、言葉尻だけ捉えれば当たりが強い。ただ、何だかんだで付き合いはそれなりに長い間柄である。口ではこう言っているが、こちらの身を案じてくれているが故の言動だ。

「ええ、分かってます。今日もよろしくお願いします、ミフネさん」

 ミフネ、と呼びかけられた男性は尚も微笑みを崩すことなく、今度は自分の背後に控える翡翠さんに視線を向ける。

「ああ、み……翡翠さんですか、おはようございます」

 翡翠さんに声をかけようとしたミフネさんが何かを言いかけ、咄嗟に言い直す。やはり、翡翠さんに彼女の面影を浮かべてしまうのは自分だけではないらしい。特に、彼は彼女に対して自分以上の思い入れがあるはずだ。

翡翠さんも朝早いようですが大丈夫ですか? 草加さんに生活習慣合わせなくても良いんですよ」

「大丈夫です。草加さんの寝顔を見るのが楽しみなので」

 翡翠さんが今とんでもないことを言ったような気がしたが、それについて問うことはできなかった。我々の話し声が響く以外、誰もいなかった待合室に、カラン、と涼やかなドアベルの音が鳴ったからだ。反射的にそちらを向けば、ちょうど一人の若い男性が玄関口で靴を履き替えているところだった。

「小鳥遊さん? どうされたんですか」

「ちょうど用事があってそこを通りかかったので、ついでと思いまして」

 そう言って、小鳥遊さんは自身の視線を横へと向ける。視線を追えば、小鳥遊さんの左肩には白鳩が乗っていた。

 鳩をこのようにして連れ歩くなど、彼が曲芸師でない限りあり得ないような話だが、彼の職業は作家である。そして、ちょこんと彼の肩に乗っているその白鳩も、ただの白鳩ではなかった。

 そういえば、翡翠さんが初めて草加診療所に来たとき、ミフネさんと小鳥遊さんとは顔合わせをしていたが、その時白鳩はいなかった。確か、小鳥遊さんの妹さんの所で預かってもらっていたのだとか。翡翠さんの姿を初めて見た小鳥遊さんが五度見してから、慌てて妹さんに連絡を取るくらいに狼狽えていたのを思い出す。

 そもそも、ただの医者である自分が、闇医者として生計を立てていたミフネさんと、有名作家である小鳥遊さんと知り合えたのはこの白鳩……深緑さんがきっかけと言える。

 小鳥遊さんの左肩に乗っている白鳩が、深緑さんが、その赤い瞳で翡翠さんを凝視する。翡翠さんも何事かと、琥珀色の瞳で白鳩を見つめ返す。

 数秒、誰も何も話さない奇妙な間が空いて、先に動いたのは深緑さんの方だった。

 小鳥遊さんの左肩から勢いよく飛び上がった深緑さんが、普段は聴かないような甲高い音を立てながら翡翠さんの頭を嘴で突き始めたのだ。

「え、何、何で、きゃっ……痛、っ!?」

「深緑さん!?」

 慌てて小鳥遊さんがミフネさんと協力して深緑さんを抱え込み、こちらは翡翠さんを背後に隠す形で咄嗟に庇う。何とか互いを引き剥がすことはできたが、深緑さんはやや興奮気味で甲高い声を立て続けていた。

 自分と瓜二つの姿の人間が目の前にいれば、誰だって動揺するに決まっている。誰もが一度、いや、自分とミフネさんに至っては未だに面影を重ねてしまうくらい、翡翠さんは「人間だったときの深緑さん」と瓜二つなのだから。

「み、どり……さん……?」

 白鳩のことを三人が「深緑さん」と呼ぶのを聞いて、翡翠さんはおずおずと白衣の背後から顔を出す。翡翠さんの表情に混乱と恐怖が色濃く表れているのはすぐに分かった。

草加さん、あの鳩さんは深緑さんというお名前なんですか?」

「……ああ」

 翡翠さんは現代の常識に疎いところがあるが、非常に聡明な子だ。そして、彼女自身が特殊な出生故に、世界には人類には理解できない異質な存在や現象があることを理解している。

 だからこそ、常連の患者さんが初めて翡翠さんのことを見たときに「深緑さん」と呼ぶ意味を、彼女はきっと理解しているのだろう。

「庇ってくださってありがとうございます。でも、これは私の問題ですね」

 白衣の裾を握りしめる翡翠さんの手は、少し震えていた。小さなその手を上から握りしめれば、ハッと顔を上げて、こちらに対して緩く微笑んだ。

「……大丈夫、です。だって、あの人は草加さんの大切な人なんでしょう?」

 そう言われれば、返す言葉がなかった。

 翡翠さんは横を通り過ぎて深緑さんに近づき始めた。一歩、さらにもう一歩。歩むごとに深緑さんの声は更に大きくなるが、翡翠さんの足は止まらなかった。

「怖がらせてしまって、ごめんなさい」

 歩きながら翡翠さんが告げた最初に言葉は、謝罪だった。

「きっと、あなたはこう思っているんでしょう。『私の偽者が、草加さんを騙して奪い取ろうとしているのではないか』って」

 小鳥遊さんに抱きしめられている深緑さんの声が、徐々に小さくなっていく。

「それは違います。あなたの居場所は、奪われてなんかいません」

 翡翠さんが差し伸べた手が、深緑さんの嘴が届く距離になる。ただ、先程のように深緑さんは突いたり威嚇したりする真似はしなかった。

草加さんは、今もあなたのことを大切に想っています。だから、私はこの姿になったんですから」

 小鳥遊さんから深緑さんを預かった翡翠さんが、両手でしっかりと彼女を持ち上げる。抱きしめるわけではないが、とても大切なものを扱うように丁寧に、慎重に。

 そして、深緑さんを手元に寄せ、頭を下げて小声で告げる。

「どうか、私にあなたの居場所を貸してください。私には、此処しかありません。私を救ってくれたあの人と、少しでも一緒にいさせてください」

 その時、深緑さんがどんな反応をしたのか、終ぞ知ることはなかった。突如として「何か」が診療所の窓ガラスを割って突撃してきたからだ。さらに、その「何か」はガラスの破片を診療所の中に巻き散らし、小気味よい音を立てて診療所の壁に突き刺さった。

「な、何ですか今のは……っ!?」

 あまりにも唐突すぎて足が動かなかった。それは他の面々も同じらしい。翡翠さんは咄嗟に、手元に寄せていた深緑さんをぎゅっと抱きしめて庇ったようだ。

「とんでもないものが飛んで来たと思ったら、これって……」

 ミフネさんが若干顔を引きつらせながら、壁に突き刺さった「何か」を引き抜いて見せてくれた。

 間違いない。弓道で用いられている矢だ。そして、自分の知り合いの中で弓矢の扱いに長けた人といえば、残念ながら一人しか思いつかない。

「もしかして、翡翠さんのことバレましたかね……いや、草加さんの養い方的にバレない方がおかしいですが……」

「え、まさか草加さん、ひょっとしてあの人に何も説明してないんですか……?」

「柊さんに、ですか? 弓道の大会でしばらく留守にすると言っていましたし、そもそも説明するようなことではないと思うんですが……」

 ミフネさんと小鳥遊さんが互いに顔を見合わせたかと思うと、二人揃って溜め息を吐いた。訳がわからない。

草加さんに自覚が無いのがまた難儀な……」

「これは、彼女に少し同情しますね……」

 一体どういうことなのか。二人からの視線が心なしか冷たく感じるのは気のせいだろうか。

 こちらが謂れのない咎を受けている一方で、男三人の様子を見てようやく息を吐いた翡翠さんが、抱きしめていた深緑さんをそっと離す。すると、深緑さんは軽く鳴いたかと思えば翡翠さんの頭にちょこんと着地した。

 その姿は、どこか彼女の存在を誇示しているようにも見えた。

 

 

 今日もいろんなことがあった。

 草加さんと出逢ってから、毎日が発見の連続だ。

 それに今日は、深緑さんと話ができた。「深緑さん」が私のモデルだと何となく理解してから、ずっと言いたかったことがようやく言えて、本当によかったと思う。

「……っ、ぁ……」

 閉じていた瞼を開ける。「眠る」という動作には、まだ慣れていない。こういうのを「寝付きが悪い」というらしいが、生まれてから日も浅いし、何より「以前」は眠る必要がなかったので仕方がない。

 草加さんからもらった縫いぐるみを小脇に抱え、ベッドから起き上がる。暗がりの中で隣のベッドを見れば、そこで寝ている草加さんが魘されているのが分かった。

 自分のベッドから下りて、隣のベッドの側まで静かに近寄った。人の気配を感じないほど深い眠りについているというよりも、夢の中で苦しんでいるから気づけないのだろう。顔色もあまり良くないように見える。

 ミフネさんの言う通り、草加さんは働きすぎだと思う。自分の手の届く範囲と言いながら、困っている人を見過ごせない。自分の身を削ってでも手を差し伸べようとする。私も、そうして助けられた。でも、少し無理をしすぎていないだろうか。

「……、な……い」

 隠しているつもりだろうが、最近このように魘されているせいか、診察と診察の合間に草加さんが眠そうにしているのを何度も見かける。寝不足、というものらしい。

「……ごめん、なさ……い」

 誰に、謝っているのだろう。夢の中の誰かに? どこかで出逢ったはずの誰かに? それとも、深緑さんに?

 そっと、草加さんの手を握りしめる。草加さんが自分を安心させようとしてやってくれたように、優しく、大切な人のことを想って。

「謝らなくていいんです。草加さんが精一杯頑張っているの、私、分かってますから」

 言い聞かせるようにゆっくりと、小さい声でもはっきりと呼びかける。

 しばらくすると、草加さんの寝息が聞こえるようになった。魘されることはなくなり、顔色も少しよくなったように感じられる。

 ほっとしたら急に眠気を感じてきた。名残り惜しくも草加さんの手を離したが、彼の表情は苦しそうではなかったので安心して自分のベッドに戻った。

 掛け布団を上から被って横向きになれば、暗がりの中だが草加さんの様子が見て取れる。落ち着いて寝息を立てている彼の姿を遠目に見てから、ふふ、と微笑んで瞼を閉じた。

 次の日の朝、彼が穏やかに目覚めるのを楽しみにして、私は静かに眠りにつくのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「いやぁ、鳩になった人間と人間になった人形が只の人間と仲良くしているだなんて、随分と滑稽な物語があったものだね」

「あれ、彼女を鳩にしたのは僕だったかな?」

「いずれにしろ、君達の平穏は永遠には続かないさ」

「『彼ら』は既に、混沌と狂気に魅入られているんだから!」

「可笑しなこともあったものさ。君達の健やかな日常を祈っておきながら、『彼ら』は再び君達を深淵に突き落とそうとする」

「それが、君達の宿命だ。だからこそ、あえて僕はこう言うのさ」

「君達の行先に『彼ら』の歓びと、邪神の祝福があらんことを!」