リーフィアと歩む緑の軌跡

大好きなリーフィアとともに歩む日常。最近はクトゥルフ神話TRPGを嗜んでいる。

2024年エイプリル・フール/パロディ創作「きさらぎ駅/草加怜ver.」後書き・本文まとめ・後日談

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今年の猫は、毎年のことながら追いつめられていた。

エイプリルフールには創作をしよう、と思い立ってから5年が経った。「草加診療所の一日」「不思議の国の翡翠ちゃん」「あめデレラ」「海の少女は冬来たる」と、過去に幾つかの創作を作ってきた。
そして、今年は約3ヶ月前から内容について考えはじめた。
相方から「怜さん(=猫の探索者)を出してほしい」という要望を聞き、最終的には「オリジナルKPレスシナリオ(短編)リプレイ記録/草加怜ver.」という企画を考えた。
しかし、3月最終週直前になっても文章は完成しなかった。

要は、頓挫したのである。

後から公開できるように律儀にKPレスシナリオの背景設定や登場人物等、約1000字書いてはいた。ただ、肝心のシナリオ部分で躓いてしまったのだ。
プロローグまでは書いたものの、その後を書き進めようとしたら、どうしても背景設定等との齟齬が起きてしまうことは明白だった。
たかが自己満足の企画でも、いや、自己満足の企画だからこそ、自分が納得できないシナリオを公開するわけにはいかなかった。

どうすればいいのかアイデアが浮かばず、しばらく時間を無為に過ごした。
そんなある日、相方から「『きさらぎ駅』を使ってみたらどうか」と助言をもらったのだ。

ちょっとした都市伝説の一つということは知っていたが、詳細は全く知らなかったので調べることにした。普段ならネタにするかどうか怪しい話だ。ただ、やろうと思えばできそうだと思った。

残された時間は少なかった。

ネットで拾った過去ログを全てコピペした後、キャラクターの雰囲気に合わせて少しずつ書き換えていった。
元ネタの2chに合わせて、X(旧名Twitter)上で返信を交わし合い、臨機応変に進行させていくマルチエンド方式も考えたが、さすがに現実的ではないので断念した。

去年と違う点は、3月末がセッションや私用により一切執筆できないことが事前にわかっていたため、それより前に文章を書き終えたことだ。猫もやればできるのである。

文章を書くよりも、予約投稿の時間を細かく設定しながら時系列に不都合がないか調整したり、この記事を投稿する前にポストを削除する算段を整えたりするほうが大変だった。しかも、当日はXのアカウント名が謎のエラーで変更できなかったり、ネタバレ記事のポスト内容が重複になってしまったりと、今年も今年で散々だった。

そんな経緯で、パロディ創作「きさらぎ駅/草加怜ver.」は完成した。

今回はホラー要素が強くなってしまい、ホラーが苦手な知人に迷惑をかけていないかどうかが少し不安(だったので、今年は12:00ちょうどにエイプリルフールネタが終わりになるように時間調整したの)だが、読者に少しでも面白いと思ったいただけたのなら望外の喜びである。

 

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すみません、気のせいかもしれませんが様子がおかしいんです。
先程から、私は◇◇私鉄に乗車しているようです。
もし詳しい方がいらっしゃれば話を聞いていただけませんか。

 

「きさらぎ駅/草加怜ver.」

 

※実際の人物や団体とは一切関係ありません。
※本作品は「2chの怖い話『きさらぎ駅』」の内容を個人的な解釈を踏まえて作成したパロディ作品です。
※本作品は「Chaosium Inc.」「株式会社KADOKAWA」「株式会社アークライト」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の三次創作物です。

 

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01:□□□:24/04/01 00:03
すみません、気のせいかもしれませんが様子がおかしいんです。
先程から、私は◇◇私鉄に乗車しているようです。
もし詳しい方がいらっしゃれば話を聞いていただけませんか。

 

05:□□□:24/04/01 00:06
ありがとうございます。
まず、私は普段、通勤に電車を使っていません。
それと、何を言っているのかわからないと思われるかもしれませんが、私は◇◇私鉄に乗車した記憶が一切ありません。

 

09:□□□:24/04/01 00:09
車内の電光表示で◇◇私鉄だとわかりました。「まもなく●●●●駅に着きます」と表示されていますが、ずっと駅に停まりません。
所持品は携帯電話と、行き先が読めない切符だけです。
携帯電話は電話やネット環境に繋がらず、唯一ここにだけ繋がったので投稿しました。

 

17:□□□:24/04/01 00:15
乗客の方は、この車両には私以外に5人いらっしゃいます。皆寝ています。何度か声をかけてみましたが一切起きません。
普段電車に乗らないこともあって、外の景色には見覚えがありません。こちらの景色に心当たりがある方はいませんか。

 

35:□□□:24/04/01 00:19
すみません、画像が送れていないようです。
何度か試してみましたが、やはり文字しか投稿できないようです。言葉だけでよければ詳細をお伝えできると思います。

 

41:れい:24/04/01 00:21
とりあえずコテハンを付けてほしい、という話だったので付けました。よろしくお願いします。

>>外の景色
曇り空の下、田んぼの風景が続いています。ほとんど枯れた草木しか見えません。遠くに山が見えます。たまに木造の建物らしきものが見えます。人の姿はありません。

 

43:れい:24/04/01 00:24
>>携帯電話
圏外で、どこに電話しても繋がりません。
ネットワークにはつながらず、アプリや各種サイトはどれもネットにつながらないのに、なぜかここだけつながります。
電池残量は80%くらいです。時刻と日付欄は文字化けしていて読めません。

 

44:れい:24/04/01 00:26
>>切符
行き先の駅名や乗車日時が文字化けして読めません。文字化け解読アプリが起動しないので駅名の解読は難しいです。

>>電光表示
「まもなく ●●●●駅」と表示され、それ以外の画面が映りません。「●●●●」は切符とは違う文字のようですが、こちらも読めません。

 

48:れい:24/04/01 00:28
>>前後の車両
見える範囲で他に乗客は乗っていません。今、私がいるのは2両目で、どうやら3両編成の電車のようです。

取り急ぎ、現状わかることはこれだけです。また何かおかしいことがあれば相談させていただくかもしれません。

 

65:れい:24/04/01 00:35
何でそんな冷静なのか、と言われましても……。

>>自分について
三十代男性です。独り身ではありません。
服は普段着。所持品は前述のとおり。
ここ数年で何度か誘拐されました。
今回は五体満足の状態で、しかも外部と連絡が取れているのでひとまず安心しています。

 

79:れい:24/04/01 00:46
停まる気配がないので、助言どおり、両端の車両まで行って車掌室を見てきました。
どちらも小窓にブラインドがされていて、車掌さんも運転手さんも姿が見えませんでした。ノックをしても応答はなし。
また、扉には鍵がかかっていて開きませんでした。蹴破るのは止めました。

 

88:れい:24/04/01 00:53
トンネルを出てから少しずつ速度が落ちてきました。
駅に止まりました。
車内放送はありませんが、扉が開いています。

駅のホームにある表示は普通の日本語として読めました。
きさらぎ、という名前の駅のようです。
降りるべきでしょうか。

 

93:れい:24/04/01 00:55
車内の電子表示が「まもなく終点 ●●」という表示に変わりました。「●●」部分は変わらず文字化けで読めませんが、恐らく切符の行き先の駅名と同じものかと。

 

105:れい:24/04/01 00:57
みなさん、ご助言ありがとうございます。
終点まで辿り着いた後に何があるのかわからないので、この駅で降りてみようと思います。
もし人がいれば話を聞けるかもしれません。

 

111:れい:24/04/01 01:01
どうやら無人駅のようです。
時刻表も探してみましたが見当たりません。
先程乗ってきた電車はまだ停車しています。
もう一度乗ったほうが無難でしょうか。
……と書いているうちに発車してしまいました、すみません。

 

132:れい:24/04/01 01:11
人がいそうな場所まで歩いて向かおうと思います。
駅の様子を見るだけでも、タクシーが停まっているような場所ではなさそうです。
あと、無人駅は初めてなのですが、切符はどうすればいいのでしょうか。改札にそれらしい回収箱はありません。

 

140:れい:24/04/01 01:16
切符は車掌さんか乗務員さんに渡すのが一般的なのですね。教えていただき、ありがとうございます。
どちらも見かけなかったので、一応持っておきます。

>>電車に乗っていた時間
結構長く電車で揺られていました。体感としては1時間近く乗っていたと思います。

 

176:れい:24/04/01 01:33
駅の外に出て辺りを軽く回りました。予想どおり、タクシーどころか駅の周辺には何もありません。

>>電話ボックス
今の時代、むしろ珍しくなりましたね。
確かに、見つければ現在地がわかるかもしれません。線路沿いに電車が向かった方向と逆向きに歩きながら探してみます。

 

199:れい:24/04/01 01:38
>>駅名
みなさん、調べてくださってありがとうございます。
駅名は間違いなく、きさらぎ とありました。前の駅名と次の駅名は書かれていませんでしたね。

>>他の乗客の方
私以外の5人は降りませんでした。ずっと寝たままでした。

 

214:れい:24/04/01 01:46
今、線路沿いを歩いています。少なくとも道を間違えることはなさそうだと思ったのですが、みなさんと意見が合っていたようでよかったです。
携帯電話の電池残量が半分近くになりました。
更新が少し遅くなるかもしれません。

 

259:れい:24/04/01 02:43
線路沿いを歩き続けていますが、公衆電話どころか民家も見当たりません。
日が落ちてきたのか、周りがだんだん暗くなってきました。足下だけ携帯電話で光らせています。
お付き合いくださるのはとてもありがたいですが、みなさんも無理なさらずに。

 

277:れい:24/04/01 02:55
話が噛み合っていないような……?
すみません、変なことだと承知の上でお伺いします。
私の携帯電話は時刻が文字化けしているので正確な時間がわかりません。
今、何時ですか。

 

281:れい:24/04/01 02:59
>>駅内の時計
注視していなかったのですが、なかったように思います。
本来なら、駅の発着時間を確認するために絶対にあるはずのものですが。

>>周囲の様子
既に日が落ちて、遠くまではよく見えません。
街灯もまばらです。携帯電話の光源がなければ足下も危ういです。

 

285:れい:24/04/01 03:09
>>そちらの時間
教えてくださってありがとうございます。
ひょっとしたら、こちらはそちらとは違う場所なのかもしれません。

>>私の様子
落ち着いているように見えるとすれば、それは一種の慣れかと。困っているのは事実ですが……。

 

301:れい:24/04/01 03:25
>>経験談
言えそうな範囲で良ければ。
・長いと1週間ほど拉致監禁された
・天体観測に行った先で化物に襲われたことがある
・4ヶ月ほど記憶喪失だったことがある

詳細は帰ってからで。
このまま線路沿いを歩きます。

 

420:れい:24/04/01 06:47
すみません、更新遅くなりました。生きています。
たびたび休憩していますが、さすがに足が痛いです。

 

486:れい:24/04/01 07:51
依然として何も見当たりません。
少し前から、遠くの方で、太鼓を鳴らすような音と、それに混じって鈴のような音が聞こえてくるようになりました。
暗闇から聞こえてくるので、正直怖いです。

 

501:れい:24/04/01 07:56
後ろを振り向くのは自殺行為だと思い、素知らぬ振りして歩いています。
そちらの時間だと私は何時間歩いているんでしょうか。

 

507:れい:24/04/01 08:02
>>そちらの時間
そんなに歩いていましたか……足が痛いのも当然ですね。
早く帰りたいです。

 

542:れい:24/04/01 09:24
突然「おーい、危ないから線路の上歩いちゃ駄目だよ」と、後ろから誰かに声をかけられました。
携帯電話のカメラ機能を使って確認したら、私の数メートル後ろに片足だけしかないおじいさんが立っていて、しかもすぐに消えました。
さすがに驚き、走って逃げました。

 

545:れい:24/04/01 09:30
今は無事です。走った時に転んで怪我をしたので、街灯の下で休憩しながら手当をしていました。
ただ、太鼓みたいな音が少しずつ近づいてきている気がします。できるだけ先を急ぎます。

 

572:れい:24/04/01 10:18
まだ生きています。骨などに異常がなかったので、休みながらゆっくり歩いています。
携帯電話の電池残量は20%を切りました。
まだ死ねないので、このまま進みます。

 

609:れい:24/04/01 10:54
依然として何もありません。
後ろから音が近づいてくることだけ分かります。

 

676:れい:24/04/01 11:11
何とかトンネルの前まで着きました。
恐らく、きさらぎ駅に着く前に電車で通ったトンネルだと思います。
トンネルの名前も文字化けしていて読めません。
音が近くなっています。このままトンネルを抜けてみます。
無事トンネルから出られたらまた更新します。

 

722:れい:24/04/01 11:30
無事にトンネルから出られました。
トンネルの先の方に誰か立っているのが見えます。

 

734:れい:24/04/01 11:35
その方と話ができました。
「近くの別の駅まで車で送ろうか」と提案してくださいました。

 

736:れい:24/04/01 11:37
>>地名
場所を伺ったら、知らない地名を伝えられました。

>>時間
夜中の3時を回っている、と言われました。

 

759:れい:24/04/01 11:44
にげてゆいま
おわれて

 

*****

 

いつの間にか、線路沿いを大きく外れて走っていた。

足音が、祭り囃子が、暗闇の奥から追いかけてくる。音が、ひどく、近い。

現実とは違う世界。地名が違い、文字が違い、時間の流れが違う。

ここまでの話が本当だとすれば、この世界で暮らす住人の提案を正直に受け取ることはできない。だからといって、一度提案を断った途端、顔色を変えて襲いかかってくるとは思わなかった。

ここにいてはいけない。何としても帰らなければ。

周囲を照らすものはなく、携帯電話の明かりを頼りにひた走る。

どこに行けばいいのか、何をすればいいのかわからない。でも、立ち止まったら追いつかれる。

不意に、明かりが消えた。

電池残量が切れたのか。夜目を何とか利かせるしかない。

一瞬止まった足を再び動かそうとして、しかし、何かに足を取られた。

とてつもなく強い力で体勢を崩される。
衝撃と痛み。砂利と土の感覚。自分の体に重くのしかかる何かを知覚する。押し潰されて身動きが上手く取れない。身を守る呪文を唱える時間はなかった。

視線を前に向けると、ポケットにしまっていたはずの電車の切符が落ちていた。

唯一できたのは、それに手を伸ばすことだけだった。

そして、

 

 

 

 

草加怜は飛び起きた。

体中から一気に汗が吹き出す。荒い呼吸を繰り返しながら周りを見回して、現状を確認した。
自宅のベッドの上。寝間着姿の自分。枕元にあった、電池残量の切れた携帯電話と、千切られた白紙の切符。

携帯電話を充電コードに繋げて、真っ先にあのサイトを確認する。しかし、確かに打ち込んだはずのコメントや他の人からの返信は、ネット上に残っていなかった。

あれは夢だったのか。それとも――。


真相は誰にもわからないまま、2024年4月1日の朝がやってきた。